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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

ユニクロが海外進出で感じる、日本の家電・自動車メーカーが築いた“日本ブランドの尊さ”

文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer
ユニクロが海外進出で感じる、日本の家電・自動車メーカーが築いた“日本ブランドの尊さ”の画像1
フィリピン・マニラ(「Getty Images」より)

 多くの東南アジアの国と同様に、フィリピンにおいても日本車の人気は高い。その理由はどのようなポイントにあるのだろうか。

『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』(大﨑孝徳/日本実業出版社)
『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』(大﨑孝徳/日本実業出版社)

 まず、フィリピン自動車市場の概要を確認すると、2018年度の販売台数は40万台程度となっている。日本の530万台と比較すれば、いまだ1割にも満たないが、人口が高い増加傾向にあり、経済も順調に成長していることを考慮すれば、今後が楽しみな市場ではある。一方、人口1.26億人を対象に毎年500万台以上の自動車が販売されている日本というマーケットのすごさを改めて感じてしまう。

 フィリピン市場における自動車のタイプに注目すると、商用車27万台、乗用車13万台と、商用車が3分の2を占めており、乗用車が主流である日本とは大きく異なる。

 フィリピンでもっとも高いシェアを保持しているのはトヨタ自動車であり、37.9%と圧倒的な状況である。以下、三菱自動車工業16.4%、韓国・現代(ヒュンダイ)8.8%、日産自動車8.7%、米フォード5.8%により、トップ5が形成されている。さらに、6位から10位は、本田技研工業(ホンダ)、スズキ、いすゞ、中国フォトン、米シボレーとなっている。

 トップ10に日本メーカーが7社も入り、また三菱自が2位につけている点も興味深い。さらに、現在、フォトンの1社のみであるが中国メーカーが進出してきている点は注目に値する。

 高級車市場に注目すると、トップは独メルセデス・ベンツ773台、2位はレクサス(トヨタ)615台、3位は独BMWの508台となっている。世界の高級車市場といえば、これまではドイツを中心とした欧州メーカーに独占されていたが、日本メーカーが一石を投じている。一方、トラック市場においては、いすゞが19年連続の首位となっている。

 もっとも売れているモデルはトヨタの「ヴィオス」であり、価格は日本円に換算すると、160万円となる。日本では発売されていないが、カローラのような4ドアセダンであり、東南アジアなどではよく見かける。1人当たりGDPが34万円と日本の10分の1にも満たないフィリピンにおいて、160万円という金額は一般の庶民にとってかなりの高額となる。2位は同じくトヨタの「フォーチュナー」で価格は350万円にもなるが、2万台以上が販売されている。このモデルは、日本でいえば「ランドクルーザープラド」のような車高の高いSUV(スポーツ用多目的車)である。

フィリピンの自動車事情

 フォーチュナーに代表されるように、フィリピン市場は日本以上にSUVの人気が高い。日本のSUV人気の理由にはキャンプなどレジャーにおいて便利であるといったことが挙げられるようだが、フィリピンのSUV人気には深刻な理由がある。

 まず、道路の舗装が行われていない、もしくは不十分という場所が多い。また、排水の設備が整っていないため、それほど強い雨でなくとも頻繁に洪水が生じる。日本で洪水といえば人が流されるような大規模なものを想像してしまうが、こちらでは膝あたりまでの水位になると洪水と表現する。もちろん、このレベルでも普通の乗用車には大きなダメージとなる場合がある。

 フィリピンでもっとも売れているトヨタの人気の秘密に迫るべく、現地の人にインタビューすると、まず故障率の低さ、燃費の良さという、いわゆる性能の良さが挙げられた。また、故障した場合、補修部品が安いという意見も多く聞かれた。この点に関しては、トップブランドであるため、メーカーの純正品に加え、多くの模倣品のようなものが広く出回っているのではないかと思われる。

 また、古くは日本の家電メーカーを中心に形成された“日本”というブランドへの絶対的な信頼感のようなものを、こちらが驚くほど多くのフィリピン人が強く抱いているとあらためて感じた。この点に関して、ユニクロ・フィリピンのスタッフが「日本の家電メーカー、自動車メーカーが築いてくれた日本ブランドの恩恵を自分たちは受けている」と言っていたが、現在ではそのユニクロもフィリピンにおいて高品質であると話題になっており、このようにして日本ブランドの価値が継続していくことは、実に素晴らしい。

 さらに、日本ブランドに関しては、グラブ(日本では“白タク”に該当するため違法だが、フィリピンでは広く普及している自動車配車サービス)のドライバーとの会話は興味深かった。彼はスズキの自家用車を利用してグラブのサービスを行っており、筆者が「なぜ人気のトヨタではなくスズキを買ったのか?」と聞くと、「トヨタはフィリピンで製造している。しかし、このスズキは日本で製造されている。当然、日本で製造されているほうが優れている。俺はフィリピンの技術を信用していない」と答えた。

 一般には輸入よりも現地生産のほうが、雇用の創出など、地元経済への貢献となるため好意的に受け入れられると考えられているが、一消費者の立場に立てば、そういう考えもあるのかと大変勉強になった。
(文=大﨑孝徳/デ・ラ・サール大学Professorial lecturer)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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