レクサスが発表した高度運転支援技術の広報資料には、不思議な文言が記されている。
まず、そのシステムの総称が「レクサス・チームメイト」であること。そしてタイトルに「人とクルマが仲間のように共に走る」とある。
「チームメイトとは?」「仲間のようにとは?」――。謎を抱えたままの試乗になった。
今回、追加された新技術は「アドバンス・ドライブ」。高速道路や自動車専用道路でのみ機能するシステムである。これまでのシステムをさらに熟成させたという。
具体的には、ハンズフリーで車線をキープ。先行車に追従して走行。スロー走行車が確認されれば、車線変更による追い越しを提案。それを承認すれば自動的に車線変更し、希望とあらば元の車線に戻る。緊急時対応システムは、ドライバーが意識を失い運転が困難と判断されれば緊急停止し、ヘルプネットで救急車を要請する。そこで得たデータはサーバーに送信され、フィードバックされて開発に生かされる。なおかつソフトウェアは簡単にアップデートが可能で、最新のシステムに書き換えられる。
とはいえ、それだけがアドバンス・ドライブの本質ではない。先行車追従や車線変更はもはやポピュラーな技術でもあり、緊急時対応はすでに「LS500」に搭載されている。新システムの本質は、まさに人とクルマが仲間のように共に走り、まるでチームメイトのような関係での高度運転支援にあるのだ。
たとえば、スロー走行車両の車線変更は、ドライバーがハンドルに手を添えたうえでの作動になる。正面のメーターに組み込まれたカメラが常にドライバーの瞳や顔の角度を監視している。それによりドライバーが、サイドミラーに視線を配り、後方を確認したことを認識してから、おもむろに車線変更が開始されるという段取りを踏む。従来の無機質にハンズフリーで車線変更を完了させるシステムを思えば退化のように感じられるが、実はそこがポイントだ。人と機械が能力を補完し合いながら、安心で安全なドライビングをするのである。
今回、アドバンス・ドライブを試乗して、あらためて突き付けられたのは、ハンズフリーで自動的に車線変更してくれるクルマに恐る恐る身を任せ、緊張して体を硬直させているよりも、ステアリングに手を添えて、ちらりと自ら後方を確認したのちに車線変更してくれるほうが、はるかに快適であるということだ。人の気持ちを理解し、人間の本質的な感覚に寄り添った技術のように思えた。
クルーズコントロールによるレーンキープも今や珍しくはないが、隣車線に大型トラックなどが並走していれば、車線をキープしつつも、わずかに間隔を広げながら追い抜きをしてくれる。人間が無意識にそうしていることを再現してくれるのだ。
高速道路を走行中、横から合流しようとしている車両があったとする。するとアドバンス・ドライブは優しく減速しつつ、合流しやすいように間隔を分け与えようとするのである。人とクルマが仲間になりながら、交通の流れすら整えてくれる。これこそが僕らが今、求めている現実的な技術なのだと、眼から鱗が落ちる思いである。
これまでは車線を譲らずに停止していた緊急時対応システムも、進化して路肩に寄せて救急要請するようになった。
これらのシステムは、従来から採用されているミリ波レーダーとカメラに加え、新たにLiDAR(ライダー)が採用されたことで完成度を高めた。より正確で詳細に対象物の輪郭の捕捉が可能になったのだ。
だが、その技術的な新しさよりも、そして米国SAE(自動車技術会)が示した運転支援技術でいうところの「レベル2」であるか「レベル3」であるかといった議論よりも(あえていうならばレベル2である)、日常的に使いやすく、人間の感覚に近く、そして交通の流れを円滑にするプログラミングが素晴らしいと思えた。これこそが、僕らが求めている高度運転支援技術であろう。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)