マクラーレンは、空に向かって火を噴く――。
エキゾースト(マフラー)が空に向かって突き出ているなんて、まるでアメリカで盛んに行われているドラッグレース仕様か、一昔前の“チバラギ仕様”を彷彿とさせる。そんなスーパーカーが、「マクラーレン600LT」だ。
とはいうものの、伊達や酔狂でこしらえたのではなく、理論的な裏付けがある。それもそのはずで、マクラーレンは、フォーミュラ1(F1)で数々の栄光を重ねてきた、有名コンストラクター(製造者)である。技術的にもっとも高度なF1コンストラクターがロードゴーイングカー(公道を走るクルマ)を開発したのだから、決して“ウケ狙いのおもちゃ”などではない。
マクラーレンの本社はイギリスにある。同じくF1で覇を競うフェラーリを仮想敵車に据えているのは明らかだ。フェラーリが“跳ね馬”のサウンドでマニアを魅了するイタリアンエキゾチックであるのならば、マクラーレンは空に向かって咆哮で威嚇する英国紳士だ。
ここで、マクラーレンに関して復習しておこう。マクラーレンは1963年に設立され、その3年後にはF1参戦を開始。1980〜90年代は、本田技研工業(ホンダ)と組むなどしてF1での黄金期を過ごした。アイルトン・セナやアラン・プロストを要したマルボロカラーが頭に浮かぶ方も多いことだろう。これまで8度のコンストラクターズタイトルを獲得、12回のドライバーズタイトルも手にしている。F1でもっとも成功したコンストラクターだといっていい。
そんなマクラーレンがロードゴーイングカー市場に進出したのは93年。デビューモデルの名は「マクラーレンF1」。モータースポーツ最高峰F1コンストラクターの自負をのぞかせるものだった。
それはフェラーリやランボルギーニといった超絶スーパーカーに対抗する性能を秘めていた。しかも、開発デザイナーは奇才・ゴードン・マレー氏。彼の発想は突き抜けていた。マクラーレンF1はなんと、3シーターミッドシップだったのだ。。ドライバーを中央に座らせ、左右に2名のパッセンジャーを乗せるという手法を採用する発想が恐ろしい。