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木下隆之「クルマ激辛定食」

マクラーレンの公道車・600LT、マフラーが空へ突き出ていることで車体が路面に吸い付く

文=木下隆之/レーシングドライバー

 ただし、それは奇をてらったものではない。右ハンドル、もしくは左ハンドルとした場合、左右の重量配分が均等ではなくなる。それが走りを悪化させる。それならば、中央に座らせてしまおうという考えに基づいている。技術的な裏付けがあれば、並列3シーターをも採用する。それがF1を源流とし“技術オリエンテッド”なマクラーレンの譲れないポイントなのである。

600LTのマフラーが天に向かっているワケ

マクラーレンの公道車・600LT、マフラーが空へ突き出ていることで車体が路面に吸い付くの画像3「マクラーレン600LT」に試乗する筆者

 閑話休題。そんなマクラーレンが最新の「600LT」で採用したのが、天に突き出たエキゾーストだ。それには、もちろん技術的な理由がある。

 マシンを路面に押し付ける力、すなわち「ダウンフォース」を得るためだ。そのための手法が、LT(ロングテール)。リアエンドを長くすることで、ボディ下面を通過する空気の力を使ってマシンを路面に押し付ける。それを成立させるためには、一般的なクルマがそうしている、ボディ下面を這うエキゾーストが邪魔になる。気流が乱れるからだ。それを嫌ったマクラーレンは、エキゾーストをリアデッキの上に追いやったのである。結果として、それはボディ上面の気流を整えることになり、リアウイングの効果を高めるという副次的効果も得た。

 夜中にエンジンを回すと、青い炎が天に向かって伸びる。シャレでそうしたわけではなく、あくまでも技術的に有利だからだ。

 ちなみに、速度が250km/hに達すると、100kgの力で路面に押し付けられるという。桁外れの数字だ。

 搭載するエンジンは、V型8気筒3.8リッターツインターボ。最高出力は600ps。最大トルクは620Nm。世界最高峰の推進力を誇るから、速度計の針はまるで回転系の針を追い越すような勢いで上り詰めていく。それにもかかわらず、ドライバーは恐怖と緊張の感覚に縮み上がることなく、むしろ冷静になっていく。マシンが路面に吸い付いていくからである。天を衝く炎は、マシンを路面に押し付けているのだ。

レース屋”がロードゴーイングカーをつくるとこうなるというわけだ。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

木下隆之/レーシングドライバー

木下隆之/レーシングドライバー

プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

Instagram:@kinoshita_takayuki_

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