温泉旅館の評価を一番大きく左右する要素とは?顧客の「ブランド経験」最大化戦略
とはいえ、前述のとおりBEMという職は関わる分野がとても広く、いったい自分がなんのために働いているのかわからなくなるという危険性を孕んでいます。また、多くのジョブを同時並行的にこなすことの難しさ、特に多くのスキルを持つことが期待されている場合、BEMというタイトルにふさわしい人がおいそれと簡単に見つかるかどうかという問題もあります。
BEMを成功させるために
このように期待されることが大きいBEMというポジションを成功させるために、どのような考え方が有効でしょうか。
顧客のブランド経験を改善するにしても、どこを改善するかを発見することが重要です。なぜなら、現実にはあらゆるコンタクトポイントを改善することはできないからです。
そこでヒントとなるのが、「狩野モデル」の考え方です。狩野(かのう)モデルとは、東京理科大学名誉教授の狩野紀昭氏が1980年代に唱えた製品品質要素の分類です。このモデルは世界的に高い評価を得ており、海外の品質管理研究文献には同モデルがよく引用されています。
狩野モデルでは品質の要素を大きく5つに分けていますが、ここでは重要な3つについてのみ触れます。
(1)魅力的品質要素:それが充足されれば満足を与えるが、不充足であっても仕方がないと受けとられる品質要素。
(2)一元的品質要素:それが充足されれば満足、不充足であれば不満を引き起こす品質要素。
(3)当たり前品質要素:それが充足されれば当たり前と受け止められるが、不充足であれば不満を引き起こす品質要素。
温泉旅館を例にとって説明してみましょう。
まず、魅力的品質要素とは、例えば「部屋つきの温泉かけながしの露天風呂」に当たります。これがあればとても客は喜びますが、もしなくてもさほど落胆しないでしょう。つまり魅力的品質とは必須の要素ではないけれども、備えることによって競争優位が築けるブランド属性ということができます。
次に一元的品質要素とは、「料理の質」に当たります。料理の質が新鮮でおいしく、また物珍しいメニューや食材であるほど客は喜びますが、質が悪いほど客の評価は下落します。
当たり前品質要素は、「部屋の清潔さ」がその例です。日本の旅館やホテルならば、少しでも汚さが目立てば客は激しく失望します。一方、清潔であることはある程度当たり前ですが、ある程度清潔であれば、それ以上にばい菌がひとつもないくらい清潔にしたところで客から高い評価を得ることは難しいのです。