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“厄介者”社長の超異例経営 倒産寸前から奇跡の復活!元請けを買収、2年で黒字化

文=福井晋/フリーライター
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カネボウ買収で完結した、セーレンの一気通貫事業モデル

 セーレン自身にとっても、旧カネボウ繊維事業再建は、斜陽の繊維産業で自社が生き残るための必須条件だった。

 90年代、自動車内装材事業に参入した同社は、製品の低コスト化と品質向上を図るために一気通貫の生産体制構築が不可欠と考え、織り・編み、染色加工、縫製の内製化を進めた。しかし、製糸の内製化だけが未解決だった。

 上流工程の製糸を、非製糸メーカーがゼロから立ち上げるのは、無理に等しい難題だった。そこで、製糸メーカーの買収先を物色していた矢先の04年に、カネボウが倒産した。事業再建が不可能と判断され、買い手がなかったカネボウ繊維事業を、セーレンは運良く買収した。

 したがって、カネボウ繊維事業の再建は、同社の至上命題だった。再建に失敗すると、製糸工程の内製化が頓挫し、一気通貫生産体制の構築が不可能になる。しかし、再建に時間がかかれば、それだけコストが膨らみ、品質向上も中途半端になる。

 このため、川田氏は優秀だった旧カネボウ社員を「再建に巻き込んで、自主的に動かそう」と考え、潜在能力を引き出すための環境整備に腐心した。指示待ち意識を払拭し、自主性、責任感、使命感を植え付けることに注力したのだ。

 そうした努力の結果、KBセーレンは設立2年目の07年3月期に営業利益14億円を達成、長年の赤字から脱却した08年3月期に、営業黒字が約17億円の増益となり、再建が確定的となる。同時に、セーレンは自動車内装材を製糸から販売まで一気通貫で行う、現在の事業モデルの原型も確立させた。

再建を妨げる問題をあぶり出せ

 カネボウ繊維事業再建成功の秘訣は、実はセーレン自身の経営再建体験にあった。

 セーレンは、繊維製品メーカーの染色工程を下請けして加工賃を稼ぐだけの事業に安住し、80年代の繊維不況で倒産寸前に陥った。その時、創業家の指名で、末席取締役から社長に抜擢されたのが、子会社の自動車内装材の開発・販売で唯一売り上げを伸ばしていた川田氏だった。「異端児」「厄介者」といったレッテルを貼られ、社内で冷や飯を食わされていた社員というのは、川田氏のことである。

 しかし、危機感をあらわにして、社員に自主性、責任感、使命感の大切さをいくら訴えても、彼らはまったく動かなかった。そこで初めて、川田氏は「かけ声や説教では、長年染み付いた意識は変わらない。仕事の仕組みを変えなければ、意識は変わらない」と気付いた。

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