13年5月、前月に就任したばかりの大橋徹二社長は、インドネシアの首都・ジャカルタにいた。インドネシアは資源バブルの崩壊以降、石炭採掘に使う鉱山機械・車両の需要が減退しており、大橋社長の最大の懸念事項になっていた。そこで、「いつになれば、需要の前提となる石炭市況が回復するのか」を直接確かめたいという思いを抑えきれず、社長就任直後の超多忙な状況にもかかわらず、現地視察を敢行したのだ。
大橋社長は、現地のコマツ販売代理店や石炭開発会社のトップと面会し、石炭市況の先行きを聞いて回ったのはもちろん、石炭採掘現場に足を延ばし、現場管理者にも石炭市況の見通しを聞いた。
すると、返ってきたのは、いずれも「しばらくすれば、市況は回復する」という答えだった。「市況の先行きは不安だ」の声は誰からも聞かれなかった。東京で深刻な状況を心配していた大橋社長は、現地関係者のあっけらかんとした反応に拍子抜けする思いだったようだ。
だが、9月になっても鉱山機械・車両需要回復の兆しは見えなかった。大橋社長が、現地関係者の根拠のない楽観的な見通しを真に受けたことを悔やんだ時は、すでに万事休すだった。同社は、業績予想の下方修正に追い込まれた。
実は、インドネシア事業の予測外れは、新米社長の判断ミスだけが原因ではなかった。同社が頼りにしていたコムトラックス自体が、変化をつかめなかったのだった。
ビッグデータ収集と製販一体のデータ分析で「万全の需要予測」
コムトラックスは、通信衛星や携帯電話の回線を使い、コマツが世界中で販売した建設機械や鉱山機械の稼働状況を、リアルタイム監視できる遠隔管理システムだ。
このシステムに伴い、同社の建設・鉱山機械は、稼働状況を監視するセンサーや稼働場所を特定するGPSを標準装備しており、大阪工場のオペレーションセンターで一元管理されている。
センターの正面壁には4台の大型モニターが並び、世界各地の工場ラインなどの映像が24時間リアルタイムで映し出されている。オペレータはそれを見ながら、自席のパソコンでコムトラックスを通じて世界中から集まる34万台以上の機械の稼働状況、流通在庫、日々の販売台数などをチェックしているのだ。
同社は、これらの分析結果などを判断材料に、毎月開催する全社販生会議で、生産台数の増減を月次で決める。ビッグデータ活用の巧拙が、同社の収益を大きく左右しているのだ。
全社販生会議は、販売部門と生産部門が一体となった同社独特の組織だ。議長は、篠塚久志取締役と、高橋良定専務執行役員が共同で務めている。同会議には、社内から選出された販売・生産の管理職と、藤塚主夫CFOが参加する。
同会議は、建設・鉱山機械の稼働状況、日次販売状況などのビッグデータ分析に基づき、世界中の同社工場の生産台数を決め、流通在庫最適化を図る、司令塔の役目をしている。