同社が同会議を設置したのは、11年だ。08年のリーマン・ショックによる世界的な景気後退により、建設機械の在庫が膨れ上がってしまった反省がきっかけだった。当時も、コムトラックスにより機械の稼働状況はリアルタイムで把握していたものの、流通在庫や日次販売状況までは把握できなかったからだ。
当時の社長だった野路國夫会長の指示で、流通在庫はすべてコマツの資産にした。代理店の資産にしてしまうと、流通在庫を正確に把握できないからだ。その結果、一時は1万8000台もあった流通在庫を約1万台まで削減、以後は適正化を実現している。
コムトラックスの威力は、それだけではない。さまざまな経済指標と機械の販売データ、機械の稼働データなどをチャート分析すれば、国別の需要予測ができる。さらに、各国の経済成長についても、かなりの精度で予測できるといわれている。当然、それらのデータを販促に活用することもできる。
例えば、建設機械の稼働時間が半年前より長くなっていれば、それだけ消耗している証拠であり、更新時期が近づいていると推測できる。それにより、同社は競合他社よりも先に営業ができるというわけだ。
業界内で、コムトラックスが単なる遠隔管理システムではなく「コンピュータ需要予測システム」と見られているゆえんだ。
コンピュータには荷が重すぎた、新興国の需要予測
そのコムトラックスが、なぜインドネシア市場の変化をつかめなかったのだろうか。
インドネシアでは13年夏以降、現地関係者が揃って楽観視していたように市況が回復、石炭採掘量が増えていた。当然、コマツの鉱山機械の稼働時間も短縮されていなかった。「全社販生会議でも、コムトラックスの分析からインドネシアの石炭市況は回復に向かっており、鉱山機械の買い替え需要は減らないと判断された」と、同社の関係者は打ち明ける。
この判断を打ち砕いたのが、インドネシアの通貨であるルピアの急落だった。同年7月以降、ルピアの対ドルレートは約20%も下落した。鉱山機械の取引は、その大半がドル建てだ。現地の石炭開発会社に、コマツの鉱山機械を買い替える余裕はなかった。
前出の関係者は「インドネシアのように、想定外の要素が絡んでくると、いくら賢いコムトラックスでもお手上げだ」と、コンピュータ需要予測の限界を認めている。