シャープが再建策を発表した翌日の5月15日、同社の株価は急落し、一時前日比23円安の177円で年初来安値を更新する場面もあった。再建策では事業ポートフォリオの再構築と固定費の削減、ガバナンスの再編強化を柱に掲げたが、「固定費の削減以外は、まったく具体性がない」などの指摘が相次ぎ、失望売りを誘った格好だ。
だが、証券アナリストは「シャープが具体策を出せないのは想定内」と語る。景気回復に水を差されたくない首相官邸の意向もあり、主力2行は再建策が時間切れで生煮えのまま渋々融資に応じたとの観測も事前に広まっていた。
株価急落以上に市場関係者が注目したのは、当日開かれた三菱UFJ FGとみずほFGの決算発表だ。これまで「シャープは日本に必要な企業」と一般論を繰り返してきた三菱UFJ FGの平野信行社長は、シャープの構造改革の中身に言及し、「施策の詰めが終わっていないものも確かにある」と計画の甘さを指摘した。
メーンバンクの怒り
平野社長以上に辛らつな発言をしたのが、みずほFGの佐藤康博社長。「(シャープには)ポテンシャルがある」「重い負の遺産が取れるのは大きな効果がある」と可能性を示しつつも、「今のかたちのまま、シャープが10年後あるとは思えない」と爆弾発言。「シャープがどのような展開になるにしろ、(その)一員として参加していける土台をつくることができる計画」と中期経営計画を評した。発言の真意について言明は避けたが、メーンバンクが主導して事業再編に向けて動き出すと見るのが通常の見方だろう。
銀行業界関係者は「関係者どころか日本国民の大半は、シャープが今のかたちのまま生き残れるとは思っていない。ただ、そのことをメーンバンクのトップが口にすることの意味は重すぎる」と指摘する。「口が滑りすぎる」と業界でも有名な佐藤社長のみならず、冷静沈着な平野社長まで注文をつけたのは、シャープ経営陣がいまだに悠長な発言を続けているからだろう。
シャープの高橋興三社長は14日の再建策説明後の囲み取材で、他社との合弁による液晶事業分社化を完全否定した。業績の浮き沈みが激しい液晶事業を切り出し、規模をスリム化して再成長を目指す再建戦略の枠組みを表向きとはいえ根底から否定されれば、メーンバンクが怒りを隠さないのは当然といえよう。
銀行団も「シャープ解体」のもくろみを隠さなくなった今、4~6月期の第1四半期決算次第では、事業再編が急加速する可能性も出てくる。
(文=黒羽米雄/金融ジャーナリスト)