分社化とカンパニー制が企業を滅ぼす?ソニー、ウォークマンがiPodに敗北した根本要因
実は、iPodと同じことをやるのに必要な要素は、すべて当時のソニーの手元にあった。音楽のネット配信技術を世界で初めて実現したのはソニーだし、ネットワークもパソコンもあった。音楽コンテンツも有していたし、何より実績抜群の音楽再生プレーヤー、ウォークマンがあった。それにもかかわらず、後から出てきたアップルにあっという間に抜き去られたのは、それぞれの事業が協力するのではなく、むしろ競争する体制になっていたからだ。管理単位の細分化と厳格な独立採算制は、社内に競争状態をつくるのである。
結果的に、ソニーはウォークマンを優れたハードウェアにすることはできたが、消費者が選んだのはノイズキャンセラもなく、音質でも明らかに劣るiPodだったのである。
アップル現CEO(最高経営責任者)であるティム・クックは、創業者のスティーブ・ジョブズの部下だった頃、「アップルには損益計算書は1つしかない。それを見ているのがジョブズだ」と言っている。ジョブズの関心は全社利益だけということだ。個々の利益責任を問わないから、シナジーも生まれるしイノベーションも起こせる。
良薬にも毒薬にもなる分社化
現実的なイノベーションは組み合わせの妙から生まれることを考えれば、縦割りの組織からイノベーションが生まれる可能性は低い。少なくとも、目先の利益を厳しく問われるところからはイノベーションは生まれないだろう。
分社化までいかなくても、部門別に損益を管理するという、どこの企業でも見られる管理形態は、本質的に組織間のシナジーを阻害し、新たな価値の創出を妨げている可能性がある。それをさらに突き進めた分社化は、その流れをますます加速する。
歴史的にみれば、世界で初めて事業部制を採用したゼネラル・エレクトリック(GE)の目的は事業の多角化にあった。すなわち、関連性の薄い事業を同時にマネジメントするための仕組みだったのである。だから、ありとあらゆる事業を行っている総合商社が事業部制やカンパニー制を採用しているというのは、理にかなっているのだ。
事業部制、カンパニー制、分社化などについては、良し悪しという単純な議論はできない。業種特性にもよるし、経営課題が利益にあるのか将来の成長にあるのかによっても変わってくる。それらを踏まえて処方しないと、これらの打ち手は良薬にも毒薬にもなるのである。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)