熊谷 まったくなかったですね。なぜかというと、ライブドアにはファイナンス部門(ライブドアファイナンスという子会社)があって、そこではベンチャー投資をしていました。そこが金融事業で上げた売上を、子会社の単独決算で売上にするのは正しい。そして、グループの連結決算で、子会社の売上をグループの売上にするのも普通のことなんです。
●アイディアの源
――そうしたスキームのアイディアは、ライブドア社内から生まれたのでしょうか?
熊谷 ライブドアファイナンス(旧社名:キャピタリスタ)の社長をやっていた野口英昭さん(強制捜査直後に死去)が、2002年くらいに同社を辞め、某証券会社の副社長になる。同証券の投資部門ではトップですが、その野口氏が、買収案件とともにストラクチャー(事業の構造、スキーム)を持ってきました。
株式交換で企業を買収すると、ライブドア株が被買収会社の元オーナーの手に渡り、元オーナーには、その株を早く現金にしたいというニーズがある。そこで、その株を引き取るファンドを同証券側で立ち上げるから、ライブドアもお金を出しませんかと。そのお金は、ライブドア側からすると「ファンドに対する出資」です。株の売買も、ライブドアの人間ではなく、同証券の人間がやった。株価は、上がるか下がるかわかりません。たまたまあのときライブドア株が上がったからファンドが儲け、ライブドアファイナンスは分配金を得ました。当時、ファンドから上がってくる分配収益は売上計上してよかった。また、ファンドの決算を本体の決算と連結処理しなくていい、というルールでした。
――つまり、「簿外」にしてもいいということで、当時は多くの企業が、ファンドをつくっていろんなビジネスをしたわけですね。
熊谷 そうです。「連結にしなくていい」という考えでいくと、ファンドからの投資収益の売上計上は合法だし、逆に「自社株の売却益だった」という考えでいくと違法になる。
――そうすると「ファンドを使った粉飾」容疑についての実質的な争点は、「野口さんが関わって立ち上げられたファンドが、ライブドアとは切り離されたものなのか、それとも事実上一体のダミーなのか?」ということだったのでしょうか?
熊谷 ええ。ファンドが、ライブドアの連結決算に入るかどうかということですね。裁判所の判断は、「連結かどうかの基準の議論はよそう。ファンドとライブドアは一体でダミーなんだから、連結処理しないといけない」というものでした。
私は検察官に、「これは会計処理の問題じゃない。もしファンドがライブドアと一体で『自社株売買』だというなら、商法違反で立件すべきじゃないか」と言いました。なんで無理に「粉飾」に仕立てたのか? 堀江さんは会計の専門家ではないので、会計士が「これでいい」と言えば、当然売上計上しますよ。
●堀江氏と宮内氏の正義
――裁判で堀江さんの弁護団は、「宮内亮治元CFOが、人材派遣会社トラインの買収を通じてライブドアに入るべき利益の一部(約1.5億円)を、宮内さんらの個人会社に入れていた。それを材料に、検察は宮内さんと事実上の司法取引をし、検察に有利=堀江さんに不利な供述を引き出した」という趣旨の主張をしました。
熊谷 そのあたりについては、私は関知していないので、なんとも言えません。ただ、宮内さんと堀江さんは、それぞれの正義があって、会社のために行動していたと私は信じています。
●持続可能だったビジネスモデル
――ライブドアについては、堀江さんを広告塔にM&Aを繰り返し、時価総額を膨らませ、それをベースにまた株式交換で買収をしてという、M&Aを本業にしているかのような報道もされました。そうしたビジネスモデルは、時価総額が大きくなり続ける局面では成り立っても、いつかははじけたのではないでしょうか?
熊谷 いや、持続可能だったと思います。私は当時、資本政策もIRも担当していましたが、時価総額を維持するために純資産の確保に力を入れていました。事件の直近の決算では、純資産で2400億円くらいあった。当時の手元流動性はヤフーや楽天よりも高かった。表では株式交換でバンバン会社を買って不安定に見えたかもしれませんが、純資産を堅実に増やしていましたから、仮に市況が悪くなっても、ほかの会社みたいに株価は下がらない。だから上場廃止後、ライブドアの株を買い集め外資系のファンドは、200〜300億円くらいのレベルで儲かったといわれています。
――上場廃止後、ライブドア株がだいぶ割安になったところで外資が買い占め、資産を山分けしたということですね。もう一つ、ライブドアは果敢にM&Aを進めましたが、歴史もカラーも違う会社と高いシナジー効果を発揮するというのは難しかったのではないでしょうか?
熊谷 ライブドアは「社風がないのが社風」だったので、買収した後もライブドア・カラーを押し付けませんでした。堀江さんは面倒くさがりで、担当者に「あとはやっといて」というタイプなので、買収された企業は従来の経営スタイルを維持できるんです。
――ところで、ニッポン放送買収への道が閉ざされた後、ソニーとボーダフォンの買収を狙っていたと言われていますが、本当ですか?