日本人、特に郊外に暮らす層にとっては、もはや生活の一部となった感すらあるイオンモール。この、イオングループが運営する大型ショッピングセンターは、日本全国に約140店舗を擁し、2015年2月期の決算では7兆円以上の売り上げを記録した。しかし、営業利益を見ると1400億円程度にすぎず、3期連続の減益だ。
その理由には、同社の業態が小売り中心ではなく、イオン銀行による金融事業中心になっていることがある。さらに、少子高齢化が進む郊外での展開が限界を迎えたともいわれている。
「そこで、イオングループは最近、東南アジアへの進出を強めています。もともと、タイや中国でスーパーマーケットのジャスコを広く展開していましたが、業績が振るわず、タイからは撤退しています。その後、同系列のマックスバリュがタイに再進出しました。地元スーパーだけでなく、コンビニエンスストアとも競合する24時間営業や、豊富な和風惣菜などが受けて、今では首都のバンコクを中心に、70店舗以上に拡大しています」(流通関係のタイ駐在員)
この勢いで、14年から東南アジアへのイオンモールの輸出が始まった。まずはベトナムで、最大都市のホーチミン市とその北郊の2カ所だ。さらに、カンボジアの首都・プノンペン、15年5月にはインドネシアの首都・ジャカルタ西部に、それぞれ日本と同じような巨大ショッピングモールをオープンさせた。
しかし、どうにも苦戦しているようだ。フン・セン首相を招いて華々しいオープニングセレモニーを行ったカンボジアのイオンモールは、特に閑散としている。規模が大きいだけに、人の少なさが余計に目立つ。プノンペン在住の飲食関係者が語る。
「昔ながらのローカルな市場で買い物をするのが当たり前なカンボジア人にとって、あまりにも世界が違うのです。早朝6~7時に市場に生鮮食品を買いに行く彼らにしてみれば、イオンの9時オープンはライフスタイルに合っていません。お金を持った中間所得層も確かに増えていますが、それにしても値段が高いです。価格設定があまりにも生活実態とかけ離れているため、イオンはいつもガラガラです。休日は比較的来店者も増えますが、ウィンドウショッピングばかりです」
オープン時、イオンは従業員の給料を一般カンボジア人の平均より高めに設定したという。所得を増やし、従業員が休日は家族や友人を連れてイオンで過ごす……そんなかたちで普及をもくろんでいたが、今のところ客足は鈍く、撤退するテナントも出てきている。
それでも、15年中には、さらに新しい店舗をアジア各地に展開する予定だ。
「イオンをはじめとする大型スーパーやチェーン店は、日本の田舎の姿を一変させました。どこに行っても同じ店、同じ景色が続きます。『それを東南アジアにも持ち込むのか』『文化が失われてしまうのではないか』と懸念する地元の人も多くいます」(ベトナム在住の商社マン)