こうした感性の違いを無視して米国流通文化をそのまま輸入し、日本人の感性に合わせたローカライズをほとんど施さず、効率性追求だけで成長してきたのが国内流通業の歴史といえるが、それが今、効率性追求だけでは立ち行かなくなり不振にあえいでいる。
ドンキHD成長の真因は、日本人の感性をくみ上げた流通業態開発の成功にほかならない。
消費増税商戦に圧勝した、変幻自在の価格戦略
そんなドンキHDの事業モデルが本領を発揮したのが、昨年の「消費増税商戦」だった。消費増税前の駆け込み需要の反動減で総合スーパー、百貨店など総合流通大手各社が軒並み売り上げ不振にあえぐ中、同社は14年6月連結決算で売上高が前期比7.7%増の6124億円、営業利益が同5.9%増の343億円、純利益が同1.6%増の215億円という好業績をたたき出し、消費増税商戦に圧勝した。
「ドンキHD社内では、13年11月初めには消費増税迎撃作戦が発令されていた」(業界筋)といわれているが、その裏には、過去の経験からくる勝算があった。
例えば、価格競争激化で薄型テレビの採算性が著しく低下した12年、現場の判断で薄型テレビ売り場を最小限まで縮小。代わりにスマートフォンのケースやアクセサリーを拡充して採算性を高めた。また、12年後半から値下げ競争激化で食品や日用品の採算性が悪化した時は、総合スーパーのような全国一律値下げはせず、地域ごとの購買動向に合わせた下げ幅で利益を確保した。
同一商品の値段が地域・店ごとに異なる一物多価の価格戦略を取ることで、値下げしなくても売れる商品まで値下げしてしまう不合理を排除できる。この柔軟な価格戦略が、消費増税商品で先制攻撃を仕掛けられる武器だった。
14年4月1日から食品、飲料、日用品などの生活必需品を中心に、増税率3%を上回る5%以上の値下げを全店で実施、値下げ幅の大きさで総合スーパーなどの競合を突き放した。その効果はてきめんだった。
増税直後の4月こそ増税前駆け込み需要の反動で既存店売上高が前年同期比約98%となったが、5月からは売上高がV字曲線を描き、14年7-9月期には前年比2%増に回復、同年10-12月は前年比6%増に上昇した。増税前より安い値段に、それまで総合スーパーなどで買い物をしていた客までドンキHDに殺到したのだ。