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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

大学が学生を過保護にすると、ダメにしてしまう?「考える力」を考える

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授

 この企画は先輩の学生たちが考えてくれたわけで、1年生が自由に気軽に楽しくグループワークをするネタとしては悪くありません。しかし、あまりにも漠然としているため、戸惑うグループもあり、個人の好き嫌いに基づく単なるアイデアコンテストのようになってしまうなど、新入生たちが考えて議論することが難しくなっているのではないかと感じました。

簡単に答えにたどり着けないことを楽しむ

 では、この「新しい飲料を創造せよ!」というお題にいかなる条件を付ければ、新入生たちがより考えることができ、議論が活発化するようになるでしょうか。学生たちの取り組む姿をただ見るだけで暇な筆者は、そのことを終始考えていました。

 結果、「とりあえず主体を決める」というのはいかがかと思いつき、結果発表後の講評時間に、以下のような要旨の話をしました。

「もし今回のお題に主体がつけられていたら、つまり特定の会社における商品開発であったとしたら、みなさんはどのように考えたでしょうか。飲料メーカーといえども、日本コカ・コーラやサントリーホールディングスのような大手企業から、地域に特化して牛乳やソーダ水をつくっている中小企業などさまざまであり、どのような企業であるかによって戦略がまったく違ってきます。大手なら豊富な資金を用いた大々的な宣伝、全国に広がる流通網を生かした商品展開が可能ですが、中小企業の場合はそういうわけにいきません。

 一般的に行われる手法は、まずSWOT(強み/Strengths、弱み/Weaknesses、機会/Opportunities、脅威/Threats)で要因分析し、大まかな戦略の枠組みを固めます。そのうえで、STP(セグメンテーション/Segmentation、ターゲティング/Targeting、ポジショニング/Positioning)、つまり市場を分類し、ターゲットとする顧客層を特定し、どういうポジションを確立するかを決定します。その後、今回行ったような具体的な4Pを検討するという流れがお手本のようなパターンです。

 しかしながら、これをやりさえすれば正解にたどり着くというものではありません。例えば、大企業の場合、大きくとらえればSWOTにおいて類似した要因が抽出され、結果として他社と似たような商品になってしまうわけです。もちろん、こうした手法を身につけることは大切でありますが、その活用方法はさまざまです。徹底的にやり抜く、他社の10倍幅広くもしくは奥深く考える、枠組み自体を自社に合わせて修正またはあえてまったく利用しないといったことも有効かもしれません。このように簡単に答えにたどり着けないということを、ぜひ楽しいと感じて、これからの日々がんばってください」

 このようなことを、5分の間に熱く語ったのですが、その後、学生に「あの話、どうだった?」と尋ねたところ、「速すぎて、よくわかりませんでした」との返答。いやあ、お恥ずかしい限りです。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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