東京電力は、すでに自由化された企業向けなどの大口販売で、2014年度(14年4月~15年3月)に170億キロワット時の電気を他社に奪われた。家庭向けを含めた全面自由化になると、24年度には新規参入事業者の販売電力量は3倍以上の600億キロワット時にまで拡大するとみられている。
東電の販売シェアは、14年度は9割を超えていたが、24年度には8割にまで落ち込む見通しだ。関東圏に住んでいる人は、これまでは東電からしか電気を買えなかったが、これからはサービスや価格を比較して電力会社を選べる時代になる。
ほかの地域もまったく同じだ。携帯電話会社を乗り換えるように、地元の電力会社から他社に契約を切り替えることができるようになる。電力自由化で地域独占が崩れ、電力戦国時代が現実のものとなるのだ。
東電は天然ガスを工場向けに販売
家庭(商店を含む)向け電力の小売りが自由化されると、全国で8400万件、7.5兆円という巨大市場が生まれる。全国の電力需要の3分の1を占める首都圏は人口の増加が続き、今後も需要拡大が見込める唯一の市場だ。首都圏は新規参入組の“草刈り場”となるが、攻め込まれる側の東電は、具体的な迎撃作戦を練っている。
これまで首都圏市場を独占してきた東電は、火力発電だけで出力4300万キロワットに達している。今後の競争激化を見込み、中部電力と液化天然ガス(LNG)などの燃料調達や火力発電事業の統合を決めた。
やられたら、やり返す。東京ガスが電力事業に参入してきたため、東電はガス事業に進出する。ガスの小売りも、17年4月から全面自由化されるからだ。東電は、火力発電所の燃料用に輸入した天然ガスを、自社の導管を使って工場のボイラーなどに供給する。
東京ガスは、家庭向けと同じ成分のガスを工場にも供給している。そのため、輸入した天然ガスに割高な液化石油ガス(LPG)を添加している。東電はLPGを加えない天然ガスを供給するので、その分安くできる。コストパフォーマンスを売りにして、東京ガスの牙城に攻め込むというわけだ。
さらに、東電は携帯電話会社のソフトバンクと提携し、顧客の囲い込みを狙う。電力料金と携帯電話料金をセットにして、割安の料金でサービスを提供するのだ。
東電は今後、原子力発電所が再稼働すれば余剰電力が生じる。原発をフルに使い、新設される火力発電所をコストで叩きつぶす動きが表面化するかもしれない。つまり、原発による新たな火力発電所つぶしだ。
関西電力などほかの電力会社も、原発の早期再稼働に一層拍車がかかるだろう。電力各社のトップは、原発のカードを切って電力自由化を乗り切るという考え方で一致している。
電力の乱売合戦になると、どうなるのか。時計の針を戦前に戻そう。