球場や競技場の「芝生」の秘密 想像を絶するプロの技術が結集 天候や目的に合わせ調整
使用目的、管理予算、天候状態に合わせて整備する
現在、池田氏は国内では味スタやNACKのヘッドグラウンドキーパーを務めており、同社のスタッフが管理に携わる。これら以外にもJリーグチームの練習場や東京・駒沢オリンピック公園の総合運動場など、合計28面を管理している。
「フィールド管理の仕事には、使う人の目的、管理に割ける予算、天候の状態といった視点が欠かせません。ちなみに、プロサッカーチームの公式練習場は各クラブの責任者から委託を受け、競技スタジアムは所有者である自治体から委託を受けています」(同)
プロ選手が使う場合でも、試合会場と練習場では整備の仕方が違ってくる。試合会場はホームチームの選手が最高のプレーができるように整備し、練習場は見た目のよさよりも選手の頻繁な使用に耐えられるように整備を行う。
試合会場の芝は現在、「オーバーシード」と呼ぶ方法で養生する。
「例えば、東京の場合は7月ごろに冬芝が衰退して夏芝が復活します。したがって、冬芝が枯れる前に夏芝のタネを蒔くことで、冬芝の衰退と逆行するように夏芝が成長します。秋はこの逆で、夏芝が枯れる前に冬芝のタネを蒔くのです」(同)
現在、夏芝は「バミューダグラス」、冬芝は「ペレニアルライグラス」系の品種を使うことが多いという。
試合前の整備は、天候にも左右される。例えば、次のようなやり方だ。
「日曜日にプロサッカーの試合が行われる予定で、金曜から日曜まで3日間雨が予想されるとします。芝の刈り高(長さ)が選手のプレーに影響するので、天候をにらみながらも、できるだけ直前に芝を刈る。雨予報の前にラインは引きますが、ラインが薄く見えづらくなるので、一瞬でも雨が止めば、もう一度ラインを引いて試合開始を迎えるという臨機応変の作業です」(同)
一方、選手の使い勝手を重視する練習場は、チームの成績で変わる。Jリーグの場合は、天皇杯やヤマザキナビスコカップ(ナビスコ杯)などのカップ戦でチームが勝ち進むと、練習場の使用頻度が増える。逆に、リーグ戦終了後に行われる天皇杯で早期敗退した場合はシーズン終了となり、その後も管理は続くが、練習は翌年の始動時まで行われない。