6月26日午後3時頃、出版社の営業担当者が東京・神保町の某ビル7階に集まり始めた。そこは出版取次4位、栗田出版販売のオフィスである。同社の仕入れ担当者を呼び出すものの、返答は要領を得ない。続々と人が集まり、最終的にフロアは40人近い人であふれ返った。事態を見かねた栗田側は改めて状況説明をすると言い、詰めかけた人々を8階会議室に誘導。それから、約1時間半すぎの午後5時頃、民事再生の申請資料と大阪屋からの支援表明の書類が一斉に配られた。
栗田が民事再生を申請したことが確認された瞬間だった。負債総額は約135億円で、債務超過額は約30億円。2001年に自己破産した専門取次・鈴木書店を超える取次会社としては最大の破綻事案となった。
栗田から配られた資料【編注1】に大きな疑問を見つける出版社が続出した。それは、栗田からの返品方法に関する次の箇所だった。
「平成27年6月26日以降の返品分につきましては大阪屋様の買掛金支払いと相殺させていただきたく」
「申立日である平成27年6月26日以降は、同日搬入分以降の請求分との相殺となるため、6月25日以前の仕入れに伴う債務との相殺処理はできないことになります」
出版業界関係者でもわかりづらいこの文言は、以下のような意味である。
まず、民事再生や自己破産などの法的整理は申請が受理されると、当該企業の債権債務がいったん凍結され、破産管財人や監督委員、裁判所の同意なくして資産や負債を勝手に動かすことができなくなる。栗田も同様で、6月25日までの債権債務はいったん凍結された。出版社からすれば、栗田から入金される予定だった売り上げ(売掛金)が当面入ってこないのである。そのために、新たな資金繰りを余儀なくされる出版社が出てくる可能性もある。
そういう状況下に出版社を置いた上で、栗田と大阪屋は、(26日以降は新取引のため)破たん以降、栗田からの返品分は栗田の口座にお金がないので、支援元の大阪屋が出版社に支払うお金から控除する――そう提案してきたのである。
もっと要約すれば、これまでの債権(出版社側からみれば売掛金)は凍結するが、債権に含まれる商品も交えて返品するので、その分は大阪屋が出版社に払うお金から天引きするというものだ。ある出版社の経営者は言う。