危険な塩分過剰摂取やトランス脂肪酸、なぜ野放し?事業者利益優先の政府の怠慢
しかし、塩分は違う。米国人だけでなく、日本人も確実に過剰摂取している。1日当たりの塩分摂取目標量は、厚生労働省が発表した『日本人の食事摂取基準』(2015年版)では、12歳以上の男性が8.0g未満、10歳以上の女性が7.0g未満である。ところが、厚労省の国民健康・栄養調査によると、13年の1日当たりの塩分摂取量は、男性11.1g、女性9.4gである。
摂取目標量を発表しているのは、厚労省だけではない。日本高血圧学会は、高血圧の予防のために、血圧が正常な人にも1日当たり6g未満を推奨している。さらに世界保健機関(WHO)は、1日5g未満を推奨している。
日本人の現在の摂取量は、厚労省の目標量を男女とも2g以上オーバーしているが、高血圧学会やWHOの目標量と比べると2倍近く摂取していることになる。素人考えだと、1日5gまでに抑えなければ本当に健康に影響が出るのかという疑問は残るが、過剰摂取していることは間違いないだろう。
国民の健康維持政策は打ち出さない?
日本の場合は、こうした情報を国民に提供はするが、具体的な対策を取るということはほとんどない。農薬や添加物等の規格基準や残留基準値などを設定はするが、塩分やトランス脂肪酸の栄養成分や熱量(カロリー)などを規制することはしない。
過剰摂取は、あくまで個人の問題であり、自己責任と考えられている。少なくとも政府や行政はそういう考え方が主流だ。
しかし米国の対策は、実に大胆である。ナトリウムの含有量をメニューに表示するだけではなく「1日の推奨制限である2300mg(食塩5.8gに相当)を超えるメニューに警告表示を義務付ける」(日本経済新聞)というのだ。この警告表示のマーク(塩マーク)まで決まっているのだ。メニューに、警告塩マークが表示されているものを注文するのは、ちょっと勇気がいるだろう。だからこそ摂取量を減らす可能性がある。
日本では、まずしない政策だ。死につながるようなことがない限り、事業者の利益を損なうような政策は取らない。それどころか、機能性表示食品制度もそうだが、政府や行政は「事業者性善説」をかたくなに信じ、消費者が健康を害するのは「事業者の責任ではなく、消費者自身の責任だ」という信念を持っているようだ。
霞が関には、事業者が儲かることは積極的にするが、消費者の利益のためには策を講じないという不文律がある。死亡事故や世間を騒がせるような大事件が起きない限り、消費者のためには動かないのだ。「消費者利益より事業者利益優先」という体質にどっぷりつかってしまっているといえる。
つまり、国や行政は国民の健康を守ってはくれない。自分で自分の健康を守る、自分が家族の健康を守るという信念を持たない限り、健康で長生きするのは非常に難しいだろう。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)