中国で事業を行ってきた商社出身の知人は、「中国でビジネスを行う場合は、はじめから最後まで、本社の考えに基づいたマネジメントを徹底できるかが成否を分ける。現地任せにすると、問題が発覚した際に手が付けられないこともある」と話していた。
正念場を迎えたMTG
MTGの経営を見ていると、次から次に想定外のことが起き、どのように経営が安定し改善に向かうか、先行きが見通せない。この状況のなかで、多くの投資家が同社の経営に不安を募らせていることはいうまでもない。
6月13日には、MTGのグローバルブランド事業本部でも、中国向け越境電子商取引(EC)事業における会計処理に関する疑義が出てきた。これを受けて、MTGは第2四半期の報告書提出を再延長した。現時点で、直近の業績と経営管理体制の問題がどの程度深刻か、市場参加者は判断するすべを持ち合わせていない。
気になることは、経営トップが自社の置かれた状況を冷静に把握できているか否かだ。5月、MTGのトップは不適切な取引は中国に限った問題との見解を示し、決算の過年度修正も否定した。加えて、業績のV字回復へのこだわりも示した。
MTGの経営陣に求められることは、冷静かつ迅速に、自社の事業内容を精査することだ。その上で同社は自社に適した成長戦略を策定し、客観的にその執行をモニターしなければならない。それが、現在のMTGに求められる取り組みである。
もし、経営陣が成長重視の姿勢をとり続けるならば、市場参加者はMTGのリスクテイクが実力を上回っていると考えはじめるだろう。その場合には、経営への不安から同社の株価が一段の下押し圧力にさらされる展開も否定はできない。
このように考えると、MTGがコーポレートガバナンスの体制を整備して適切に業務を遂行することが求められる。それが、持続的な経営と株主をはじめとする利害関係者との良好な関係維持につながるだろう。その体制が整えば、市場参加者が再度MTGのブランディング力を評価し、成長への期待を高める可能性はある。
従来の成功体験がある分、MTGの成長志向は強い。それをこらえて経営の根幹を固められるか、MTGは正念場を迎えている。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)