報告書を受けて、東芝は過去の決算を訂正するとともに、遅れていた14年度決算を急ぐ。金融庁と証券取引等監視委員会は、金融商品取引法の違反(有価証券報告書の虚偽記載)に当たると判断しており、課徴金処分をする構えだ。東京証券取引所は東芝を「特設注意市場銘柄」に指定し、内部管理に問題がある企業として投資家の注意を促すという。
触れられなかった「のれん代」の問題
だが、報告書は、東芝の重要部門である原子力事業や半導体部門の資産状況の精査を怠った。その理由は、同社が第三者委に調査を依頼した際に、期間や対象を限定したからだとされている。これでは明らかに不十分だ。東芝や企業監査制度、証券市場への信頼を取り戻すには、かねてメディアが疑問を呈していた問題をすべて精査し、明らかにする必要がある。こうしたプロセス抜きに信頼の回復はあり得ない。
中でも大きな疑問が残るのは、東芝が鳴り物入りで06年10月に4800億円余りを投じて77%の株式を取得した米原発プラントメーカーのウェスチングハウス(WH)の現状だ。当時の西田厚聰社長は説明会を開き、原発の建設や保全サービスなどで15年には最大7000億円のビジネスが見込めると豪語していた。
この実現が困難なら、WHの買収に伴って急膨張したバランスシート上の「のれん代」(07年3月末の計上額が7467億円と、前期の6.5倍に急増)の精査が必要だ。のれん代とは、買収金額と買収対象になった会社の正味価値の差額を指す。経営の実態を決算に反映するには、保有資産のひとつであるのれん代の計上額を実態に合わせて償却していくことが不可欠だ。
ところが約300ページに及ぶ今回の調査報告には、WHの名前が一度も出てこない。あえて避けたのかと疑問を生む状態なのである。WHの本国である米国では、1979年のスリーマイル島の原発事故以降、新たな原発の建設がストップしており、原発は有望なビジネスではなくなっていた。このため、買収直後から抜本的な償却が必要だった可能性がある。
さらに12年10月、当時の佐々木則夫社長は約1250億円を投じて20%分のWH株を追加取得した。米エンジニアリング大手のショー・グループから契約に基づく買い取りを迫られて、拒否できなかったのだ。すでに所有していたWH株の価格見直しやのれん代償却との関連でも、この買収価格が妥当だったか精査されるべきだ。
東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、日本の原子力産業は壮大な不良債権になっている。東芝で原子力事業の実態を追及したら、うやむやにしてきた東京電力や日本原子力発電の経営問題に飛び火するリスクがあり、当局が積極的に追及しにくいという面もあるかもしれない。だが、避けては通れないのである。
WHの買収以降、東芝はさまざまな分野でM&Aを繰り返すようになる。結果として14年末のバランスシートには、実に1兆1538億円ののれん代が計上された。仮に、全額を一括償却すれば、東芝の株主資本(1兆4264億円)が激減する。