米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が利下げを示唆したことで、米国株が史上最高値を更新した。市場関係者の多くが今後の景気後退を予想するなかでの最高値更新であり、株式市場は一種のババ抜きゲームの様相を呈している。一部からはダウ平均が大暴落する日が近いとの声も聞こえてくる。
トランプ大統領の圧力に抗しきれず利下げを決断
2019年7月11日、ダウ平均株価は2万7000ドルを突破し、その後も株価は堅調に推移している。米中貿易戦争は解決の糸口が見えない状況であり、本来であれば、株価には逆風となっているはずだが、それでも米株が高値を更新しているのは、パウエルFRB議長の現実主義的な舵取りによるところが大きい。
パウエル氏は、7月10日の議会証言において利下げを示唆する発言を行い、市場はこれに強く反応した。同氏はこれまでも、似たような発言を行っており、利下げはほぼ規定路線となっていた。少なくとも短期的には投資家は安心して株を買い上がれる状況といってよい。
だが不思議なことに市場関係者の多くが、今後、米国景気がスローダウンすると予想している。足元では失業率が3%台と半世紀ぶりの低水準で推移しており、数字上は順調そのものだが、FRBは早くも予防的な利下げに邁進。それによって株価がさらに上昇するといういびつな状況が続いている。
景気が鈍化する兆候が見られないうちは、株価を多少、犠牲にしてでも利上げしておき、本格的に景気が悪くなった時のために、できるだけ利下げ余地を残しておきたいというのが中央銀行の自然な考え方だろう。だが、この段階で予防的な利下げに踏み切り、これまでやっとの思いで積み上げてきた「糊代(のりしろ)」を使う決断をせざるをえなかったのは、やはりトランプ大統領からの圧力が原因と考えられる。
トランプ氏は、これまで何度も「利下げが必要」との発言を繰り返しており、パウエル氏の更迭も示唆するなど、FRBに対する包囲網を狭めてきた。現実には、大統領の権限で議長を辞任させることはできないが、トランプ政権において、そうした法的な手続きはあまり意味をなさない。
パウエル議長がトランプ氏の要請を受け入れざるを得ないという状況を市場は見透かしており、そうであるがゆえに、米国経済の先行きについて皆が楽観視していないにもかかわらず、短期的に高値を追うというのが今の相場の実態である。