大幅な増配は、既存株主に利益を還元することによって味方に引き寄せ、TOBの成立を防ぐ一石二鳥の策だ。
もともとアコーディアの安定配当は、1株あたり1000円。配当性向は10%前後だった。配当性向とは、当期利益金のうちから配当金として支払った金額の割合。米ゴールドマン・サックスが筆頭株主の時代には株主の大半が国内外の機関投資家だったため、高い配当を出すことは喜ばれなかった。高い配当よりも株価が高くなることを望んだ。
この方針が一転したのは、ゴールドマンが撤退したあと。パチンコの平和=PGM連合が買収を仕掛けてきたからだ。株主総会を乗り切るには、個人株主の賛成を取り付ける必要がある。そのため12年3月期の配当金を1株1200円に引き上げた。配当性向は10.9%だった。
PGMとの抗争がエスカレートしていくにつれて、13年3月期の配当金の予想はどんどんと上げていった。当初、1400円としていた配当金をPGMがTOBを宣言する直前の10月31日日には、1600円に引き上げていた。
PGMがTOBを開始した直後の12月3日、さらに大幅な増配を打ち出した。「13年3月期における期末配当金(予想)を1株当たり5500円に修正し、また、来期(14年3月期)以降、連結配当性向90%を目処とすることを、今後の経営における基本方針に据えた」と発表した。
配当性向が9割ということは、利益金のほぼ全額を株主に支払いますということ。大盤振る舞いをするからPGMのTOBに応募しないでくれ、という意味だ。
PGMによるTOBの買い付け予定枚数の上限は、52万4105株(株式保有割合50.1%)で、買い付け総額は最大424億円。TOBを成立させるために1株8万1000円と50%超のプレミアム(割増金)をつけた。PGMの高額な買い取り価格に、アコーディア側は大幅な増配で対抗したわけだ。
今後の焦点はM&Aを阻止するホワイトナイト(友好的買収者)が現れるがどうかだ。株式市場では、「アコーディアは米ゴールドマン・サックスやオリックスのほか、プライベートエクイティ(外部の投資家から募った資金でファンドを作り投資する)業務を手掛けるファンドに、PGMに対抗して新たなTOBを行うホワイトナイトになってほしいと打診している」との情報が駆け巡る。ゴールドマンはアコーディアの生みの親である。
アコーディアがPGMに対抗できるホワイトナイトを探し出せるかが、勝負の分かれ目になる。TOBが終了する来年1月17日まで、両陣営の虚々実々の駆け引きが続く。
●敵対的TOBの歴史
なお、日本における敵対的TOBは00年1月、村上ファンドが昭栄に仕掛けたのが最初。これまでに15件行われているが成功しているのはごくわずか。