(3)は、社員全員が、翻訳された情報ではなく「一次情報」としての英語の情報に接していくことを狙いとしている。同社が求める英語力とは「国籍の違う社員同士でもビジネスに関わる情報共有が円滑にできること」で、ネイティブスピーカーのような流暢な会話を求めるものではないという。導入した結果、海外での知名度も上がり、優秀な人材を獲得できるようになったそうだ。
英語公用語化は上記の目的を果たすためで、到達度合いの指標としてTOEICを採用した。かつては役職別に到達すべき点数を定めていた(部長クラスで750点、課長クラスで700点、係長クラスで650点、アシスタントマネジャーで600点)が、14年7月より「全社員800点以上」が目標点となっている。
英語が苦手な役員が実験台になった
楽天は今から5年前、10年に三木谷浩史社長兼会長が「社内英語公用語化」を宣言した。そして経営会議や朝会、決算会議などで使う言語が英語に切り替わっていった。正式スタートしたのは12年7月からだ。
その際に、今後の到達目標も定めた。「14年までに全社員が英語で読み書きができる、16年までに全社員が英語で意見を言えるようにし、18年までに全社員が完全にコミュニケーションができる」というものだった。
導入当初は、それまでの日本語だけの会議に比べて時間を要したり、日々の業務の効率性が落ちたりしたという報道もあったが、現在の進捗状況は順調のようだ。
全社一丸の取り組みなので、人事部門が中心となってプロジェクト活動を続けてきた(現在も継続中)。興味深いのは、活動の推進役を担ったある役員は英語が苦手だったことだ。学生時代から他の科目に比べて英語が不得意だった同役員は、大学受験も英語が災いして失敗。浪人して有名大学に入学したが、卒業して社会人になってからも英語を遠ざけて過ごしてきた。だが、楽天がどんどんグローバル化に向けて舵を切り、ビジネス現場で英語が必要不可欠になるに従い、そこに参加できないもどかしさがあったという。
それが2年後に社内英語公用語化を打ち出すにあたり、三木谷氏から英語化推進プロジェクトチームのリーダーを命じられた。「一番英語で苦労しているからこそ、リーダーを務めてほしい」という理由だった。
そこで覚悟を決めた同役員は、プロジェクトチームのメンバーに「私を実験台にして英語力の向上を図ってほしい」と伝え、業務の合間だけでなく、3カ月ほど業務を外してもらって英会話の集中レッスンを受けたり、オンライン教材を買って勉強したり、文字通り「英語漬けの日々」を送った。すると、大学受験まで苦労したリーディングもリスニングも「意外に習得できる」と実感して英語力も向上。最初に受けたTOEICは350点程度だったが、2年で800点を突破したという。
この役員自身の取り組みが、英語アレルギーを持つ社員にとってモチベーションアップになったようだ。