また、日本航空123便墜落事故という同じ題材を、異なる企業を舞台に描いたのが、山崎豊子の『沈まぬ太陽』(新潮社)と、横山秀夫の『クライマーズ・ハイ』(文藝春秋)だ。前者は日本航空が、後者は上毛新聞が舞台になっている。
出光興産をモデルした作品は、高杉良の『虚構の城』(講談社)に、百田尚樹の『海賊とよばれた男』(同)と、数え上げればきりがない。
そして、ここに『小説・大日本帝国印刷』(集中出版)という本がある。印刷業界の最大手を描いた、やはり「企業もの」小説だ。同作は大きな反響を呼んでおり、熱烈なファンも少なくない。
魅力のひとつは、あまりにもあからさまな企業名だろう。舞台となる大日本帝国印刷を筆頭に、凹版印刷、JCVカード、西能運輸、住井重工、日交自動車、東京電鉄、三友不動産、三超デパート……。
本書は、こうした有名企業の“暗部”を積み重ね、あの「印刷業界のガリバー企業」の実情を明らかにしていく。今回、著者の尾道号外氏に
・本書を執筆したきっかけ
・「大日本帝国印刷」のモデルとなった企業
・印刷業界の内情
などについて聞いた。
大手印刷会社の元専務の証言を元に「小説」を執筆
–そのリアルな内容から、「Amazon.co.jp(以下、Amazon)」のレビューを見ると、小説ではなくノンフィクションとして受け止められているようです。
尾道号外氏(以下、尾道) 本書の中では、仮名にするつもりが間違えて実名にしてしまった部分もあるくらいで、ノンフィクションでの出版を検討したこともあります。しかし、私は大日本帝国印刷のモデル企業のOBです。最終的には、「小説」というオブラートに包んだほうがいいと判断しました。武士の情けというわけでもないのですが……。
–「Amazon」の著者紹介にも、大手印刷会社のOBであることが堂々と記されています。
尾道 隠しても、わかる人にはわかりますからね。私は1977年にモデル企業の印刷会社に入社しました。営業を中心に18年間勤務しましたが、その間に「大番頭」「実質社長」と呼ばれた専務が、非常にかわいがってくれたのです。