すでに、DRAMの世界最大手である韓国サムスン電子の業績は急速に悪化している。同社の業績を見ていると、短期間で半導体市況が上向くことは期待しづらい。米中摩擦の激化懸念などを考慮すると、市況の反転よりも、さらに半導体市況が悪化する可能性は高まっている。この状況下、東芝メモリの業績下振れリスクは軽視できない。
また、東芝の既存事業に関しても、持続的に収益が伸びていく展開は想定しづらい。中国企業の台頭などを受けて、社会インフラ事業などの競争は激化している。そのなかで、東芝が半導体市況のリスクを吸収していくことは容易なことではないだろう。当面、東芝は損益分岐点の引き下げを優先し、固定費の削減を進めざるを得ないだろう。
東芝の“強み”を削ぐ固定費削減
もともと、東芝は“モノ”を生み出すことで成長してきた企業だ。新しいモノを生み出すことこそが東芝の強みである。この点を明確にしたうえで、同社の経営再建をどう進めるかを考えることは重要だ。
東芝は、医療、半導体事業などを売却し、債務超過の状況を脱することはできた。その上で、2019年度に1400億円の営業利益を達成することに強いこだわりを示してきた。東芝経営陣には、2017年12月に実施した約6000億円の増資を引き受けた、投資家の期待にこたえなければならないという考えがあるとみられる。
一方、市場参加者の間では、東芝が計画通りの収益を獲得できるとの見方は少ない。同社が成長の軸に据えるインフラやビル設備事業は、エレベーターなどハードの売り上げが主だ。それはすでにあるモノであり、新しい需要の創出とは異なる。会社資料を見ていると、それぞれの事業がどのようにシナジーを発揮できるか、ロジックはやや不明瞭な印象も持つ。
収益環境が厳しさを増すことに加え、経営陣が計画の実現にコミットし続ける場合、東芝は継続的に固定費の削減を進めざるを得ないだろう。短期的には、コストを減らした分、収益は確保しやすくなる。
ただ、固定費の削減を永久に続けることはできない。東芝という企業そのものがなくなってしまう恐れがあるからだ。特に、人員の削減は組織全体を不安定にさせてしまう。組織に不安心理が広がり始めると、1つの方向に向かって企業が進むことは難しくなる。当然のことながら、前向きに、長期的なビジョンをもって研究開発などに取り組む意識は停滞してしまうだろう。固定費削減に依存した収益獲得が続くと、“新しいモノを生み出す”という東芝の強みは削がれていく。その結果、東芝の組織全体にはさらなる不安心理が広がり、士気が低下する恐れがある。