「ナマコパフェ」も長期的な集客戦略の一環?
ほかにも同館は、飼育スタッフが来館者の恋の悩みに対して海のいきものの生態にからめた回答をする企画や、普段はスポットライトを浴びることが少ない目立たないいきものを大々的に取り上げた企画など、独自のイベントを多く開催している。こうしたイベントを思いつくヒントは、いきものに長く寄り添っている飼育スタッフから得るそうだ。
「まず、企画担当者が飼育スタッフに対して、いきものへの思いやお客さまに発信したい魅力などを聞いていきます。ペンギンたちの相関図も、飼育スタッフたちの間では『ココアがアロエにアプローチしていたよ』とか『ワッフルとヨモギがケンカしたけどケガしてないかな?』という、飼育作業における日常的な伝達事項でしたが、『これってお客さまからしてみたらすごくおもしろくて、訴求力の高い題材なのでは?』と思い、企画にしたんです」(同)
その読みは見事に当たり、予想以上の反響が得られたという。
「飼育スタッフには普段通り、愛情を持っていきものと接してもらうだけですが、そのなかから、すみだ水族館だからこそ発信できるいきものの魅力を伝えられる事柄を見つけ出し、最適な方法で顕在化させるのが我々企画チームの仕事です。今春開催していた『私の愛するいきもの展』も、飼育スタッフに心の底から好きないきものについてアンケートを行い、より愛情が感じられ、特に筆圧の強かった回答を選んだ結果、『ナマコ』と『ナベカ』といういきものの展示になりました」(同)
同展では、飼育スタッフの手書きイラストを展示したり、「ナマコパフェ」というフードメニューを販売したり、館全体で総力を挙げて「ナマコ」と「ナベカ」をプッシュしたそうだ。
「企画の根底にあるのは、『近づくと、もっと好きになる。』というキーワードと、飼育スタッフのいきものに対する愛情です。大きなインパクトで勝負できなくても、コツコツと魅力を発信し続け、将来的には今以上に多くのお客さまに興味を持ってもらえるといいなと思っています」(同)
目先の動員数増加だけが狙いではなく、あくまで長期的なコアファンを増やしていくという側面も持っているというわけだ。
自由に楽しめる動線の秘密
こうした展示が可能なのは、すみだ水族館が従来の水族館とは異なる空間設計に力を入れているからだ。
「基本的に多くの水族館は順路が定められていて、お客さまの流れは一方通行になりますが、すみだ水族館は自由動線にしているため、好きな水槽の前でゆっくりと時間を過ごすことができます。それを見越して、水槽前にソファを置いたり館内での飲食ができるようにしたりと、くつろげる工夫を随所に凝らしているんです」(同)