ZOZOと前澤社長、すでに限界だった…ヤフーによる買収は孫正義氏の英断、無限の成長へ
私は個人的には前澤氏のようなユニークな人物の大ファンだ。今回のTOBにより2500億円近くもの巨額のお金を手に入れるという話も大いに結構。何より起業に対する夢を若者や社会に与えてくれる。
しかし経営者となると、求められる行動様式のひとつは「集中」であろう。ただし実績を残し成長を続けている間は何をやっても良い。「実績だけが命」が優先するからだ。前澤氏の場合、近年ZOZOの経営実績は凋落し、経営者としての「集中」が疑問視されるプライベート面に関する報道が相次いでいた。そんな状況だったので、前澤氏は今回賢明な進退を選択したと思える。
さて、新社長である澤田宏太郎氏は早稲田大学理工学部を卒業して、NTTデータに入社し、NTTデータ経営研究所に転じたのちコンサルタント会社でコンサルタントをしていた。その時ZOZO(当時の社名はスタートトゥデイ)とかかわりを持ち、やがて入社したという経歴だ。澤田氏について前澤氏は、「数字をベースにロジカルに考える経営者」と評している。確かに経歴から見ても、創業者である前澤氏のスタイルとは大きく異なる、理系でありコンサル上がりの経営者だ。
前澤氏が数々の武勇伝といってよい実績を残してきたワイルドでジャングルファイター的な強烈な個性の創業オーナー経営者だとすると、澤田氏はその対極にある経営者スタイルだと理解することができる。澤田氏は自身でも、今回のトップ交代をきっかけにZOZOはチームワーク経営にシフトすると説明している。
さて、上述のようにスタイルの異なる経営者の登場、そして新しい資本関係が生まれるZOZOの新経営に対して、危惧をいだく論評も見受けられる。冒頭に掲げた日経新聞の記事をその一例として私の見解を述べたい。同記事には、たとえば次のような論評があった。
「競争環境が厳しくなるなか、創業者が去った後も社員には革新性を発揮することが求められている」
これは難しいことだと思う。というのは、革新的なことを思いつくには、大きな志、やりとげる腕力、そして実現するリーダーシップなどが必要だからだ。これらの優れた素質は多く創業経営者に見られ、会社員、あるいはチーム構成員側に見られることは少ない。
ミュージシャン上がりというユニークな前歴で荒唐無稽ともいってよいアイデア、あるいは志に満ちた前澤氏だからこそ、現在のZOZOというビジネス・モデルを具現化できたわけだ。コンサル上がりでロジックに優れた経営者からは、破天荒となるべき「革新」が生まれにくいのが通常だ。調和を重んじるはずの「チーム経営」と破壊的な「革新」とは逆の方向を向いているからだ。
ZOZO内の革新より、アライアンスとのフュージョンを
偉大なリーダーが去ったZOZOが自律的に革新を続けることは難しい。それでは、今回の買収がビジネスとして成功を収める方策としては、ヤフーとZOZOという2社の相乗効果を求めることが、経営戦略的には正しい。
互いに異なる会員ミックスを有している。これを相互に乗り入れさせるにはどうしたらいいか。互いの商品・サービスをどう互換していくか。ZOZOの会員数は約800万人とされているが、そのうち女性の購入者は500万人強いる。20代、30代女性の30%ほどを顧客化しているはずだ。つまり、特定のセグメントでのマーケット占有率がとても高い。
一方、ヤフーは月間ログインID数が4000万人もいるという、日本有数のITプラットフォームだ。ネット通販事業はヤフーのビジネスのなかでは一部にすぎない。またZOZOよりもヤフーの会員の年代のほうが高く、男性割合も多いといわれている。
これら2つの性格の異なる2大ITプラットフォームがアライアンスを組む。しかも協業の域を超えて、同じグループとして展開する。だとすれば、ZOZO単体の革新を追及することよりも、両社のフュージョン(融合)を追及していくことのほうがはるかに大きなビジネス上の成果を生み出す。
21世紀最大の経営者のひとりとして私が評価する孫氏は、また大きな一手を打った。この一手は、ヤフーとZOZOの成長を再加速し、さらにはソフトバンクグループのより強力な一翼を構築するものと評価している。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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