ドル箱の「スーパードライ」に逆風
アサヒGHDを買収に突き動かす危機感の元は、国内事情だ。アサヒGHD傘下のアサヒビールは、かつての王者・キリンビールを「スーパードライ」で追い落とし、首位に躍り出た。そのアサヒビールが今、苦しんでいる。
飲食店では1杯目からハイボールなどを飲む客が増えており、売り上げの過半を業務用で稼ぐ「スーパードライ」への逆風がやまないのだ。「スーパードライ」の18年12月期の販売数量は、前期比7%減の9085万ケース(1ケースは大びん20本換算)と大きく減った。アサヒビールは「スーパードライ」の一本足打法だったため、ビールの国内首位の座が怪しくなった。
大手ビール会社でつくる酒造組合が、今年からビール類の課税出荷量の発表をやめたため、報道各社が独自にシェアを算出する。日本経済新聞の調べによると、19年上半期(1~6月)のアサヒビールのシェアは36.7%でキリンビールが35.2%。前年同期の両社の差は3.3ポイントだったが、1.5ポイントの僅差となった。キリンビールが18年3月に発売した第三のビール「本麒麟」の好調が続いたほか、昨夏にイオンなど流通大手のPB(プライベートブランド)を受注したことが寄与した。
国内のビール系市場は18年まで14年連続縮小した。アサヒGHDが年間売上高1700億円のカールトンを、売上高の7倍の1.2兆円で買収するのは、このためだ。海外に活路を拓こうとしている。とはいっても、海外進出がうまくいくとは限らない。
1991年、アサヒビールは豪州でシェア1位のビール会社、フォスターズに840億円出資したが、経営内部の対立で経営再建できず、97年にフォスターズ株を売却した。この株式の売却で300億円近い投資損失を出した。
このフォスターズをABインベブが買収して、カールトンとした。まさに因果は巡る。ABインベブが手放した豪州事業を、今度はアサヒGHDが買収するわけだ。
前回と同じ轍を踏むことになりはしないかと懸念する声は尽きない。巨額買収の真価が問われることになる。
アサヒGHDは、巨額の買収資金の一部を賄うために自己株の売り出しと新株の発行で2000億円程度を調達する。発行済み株数は8%増え、1株当たり利益の希薄化が懸念される。ハイブリッド債も2000億円程度出す。株価は巨額買収の発表で下落したが、9月に入り、発表前の水準を回復。9月13日には5309円(前日比終値112円高)と年初来高値を更新した。
豪州市場で「スーパードライ」を軸とした高級化路線を強化するといっているが、「スーパードライ」が豪州の消費者に受け入れられる保証はない。
(文=編集部)