こうした個々の取り組みは、日立が開発してきた「LUMADA(ルマーダ)」につなげられていくだろう。ルマーダは、AIを用いてインフラ、産業、人々の暮らし、移動など社会のあらゆる分野のリアルな世界と、デジタル空間の接続を目指すIoT(モノのインターネット化)のプラットフォームだ。それによって、鉄道の無人運転や、より安全な上下水道の運営などが目指されている。
日立はAIを軸に、事業ポートフォリオの再構築を進めている。従来、日立をはじめ日本の重電メーカーでは、発電、インフラ、家電など、各事業セグメントにおいて必要な取り組みが考えられ、実行されてきた。現在の日立は各分野におけるルマーダ活用の可能性を基にして戦略を練り、その執行を目指す体制を整えている。
子会社売却にみる日立経営陣の決意
日立は、特定の機能を持つモノを生産するという意味での製造業から、人々の生き方やビジネスを変えるソフトウェア(発想)、およびそれを実装した製品を生み出す企業を目指している。こうした新しい取り組みを進めるためには、対象となる分野に“ヒト・モノ・カネ”の経営資源を再配分することが欠かせない。
AIを用いたIoTビジネスは、中国企業を中心に競争が熾烈化している。すでに、中国では「天網」と呼ばれるAI搭載型の監視カメラシステムが稼働している。その処理能力は、1秒間で中国の全国民を照合可能といわれる。一時、米トランプ政権が中国の監視カメラ企業であるハイクビジョン(海康威視数字技術)への制裁を検討したように、中国企業のAI開発力は高い。そのほか、米国や欧州などでもIoT関連の研究開発などは増加している。
日立は、世界規模の競争に対応し、シェアを高めていかなければならない。経営資源を確保し、成長分野に再配分するために、日立はかなりのスピード感を持って子会社の経営の見直しと、売却を進めてきた。そこには、退路を断って、新しい分野に進出しなければならないという、経営陣の成長への並々ならぬ意欲と危機感を感じる。
特に、上場子会社の売却には、AIの分野で生き残ることのできるものが、グローバル市場における競争をけん引することができる、という日立経営陣の決意が表れているようにすら思う。2006年の時点で、日立傘下には22の上場子会社があった。現時点で残っている上場子会社は、日立化成、日立金属、日立建機、日立ハイテクノロジーズの4社だ。