薬を飲まずに家に余る残薬問題、5百億円規模で国の医療費圧迫 診察料アップの恐れ
このような背景から、最近では病院のほうから「病院に審査が入るので、できれば薬局のほうから疑義照会をかけてください」という依頼を行うことが少しずつ始まっている。以前は「医師が書いた処方だから、薬局は医師の言うとおりにしていればいい」という医師が多かったが、審査が厳格化してきたことで、病院の意識も変化してきているのである。
いずれにせよ、審査が厳格化することは今後も止めることのできない流れである。我々医療者は、行きすぎの審査が導入されないよう、それぞれの責任を果たしながら連携を進めていくべきである。
これらの要素を鑑みるに、残薬チェックを行うことは、我々医療者の未来にも直結する取り組みだということがわかる。
(5)残薬を明確な課題として取り組むべき
ひとつの場面をイメージしていただきたい。ある家族がいるとする。祖母、父、母、あなたの4人家族である。祖母は体調を崩しやすく、いつも「具合が悪い」「しんどい」と言っている。毎週月曜日に病院で受診しているが、病院通いが終わる様子はない。病院では毎回一緒になり、しばしば会話をする患者もいるらしい。
この日も病院に行き、調剤薬局で薬を貰って帰宅した。帰宅して食事をした後、「具合が悪い、しんどい」と言いながら、薬を飲んでいない。あなたが「薬を飲まないの?」と聞くと、祖母は「粒が大きくて喉に当たって痛いのよ」と言う。「でも、毎日飲まなきゃだめじゃないの?」と聞くと、「どうしてもしんどいときは我慢して飲むのよ。でも、やっぱり痛いから、どうしても辛くて我慢できない日しか飲まないの」と祖母。
キッチン脇の棚に、いつでも飲めるようにと薬局の紙袋がまとめて置いてあるが、中身があるうちに次の受診日がきて、また薬を貰ってくるので、何枚も袋が置いてある。来週の受診日には、また袋が一枚増えるのだろう、とあなたは思う。
残薬は、薬剤師が取り組むべき課題として、また患者の家族から見ても、「飲まないことで患者の自宅に残っているもの、明らかに存在するもの」である。そして、その服用がなされないことで、患者自身にも、周囲(たとえば家族の介護の負担)にも、医療費にも影響が出る。だからこそ薬剤師が、まず目の前で取り組むべき課題として、残薬チェックを進めている。
実際、残薬の取り組みを進めてきたことで、直接的な結果に結びついていることが多々ある。これは「意識をもって」在宅医療の現場に臨まなければ、決して見えないものであった。
次回は、在宅訪問を行ったことでわかったこと、および処方変更の対応などについて記していく。
(文=福井繁雄/薬剤師、一般社団法人Life Happy Well代表理事)