ショック安、すなわち企業の株価が不祥事や大事故によって急落した局面で買いに出て、戻り(株価の回復)を待つ手法で成功してきたベテラン投資家からすれば、東芝の不正決算問題は恰好の狙い目だった。だが分析の末に投資は見送ったそうだ。究極の逆張りともいえる、この種の投資の成否を決めるのは当該企業の復元力の有無だが、東芝の場合は大きな期待はできない、との結論が出たのだろう。
改めて東芝の業績や主要な財務データを調べてみると、投資家の判断はうなずける。総合電機大手3社の日立、東芝、三菱電機を比較してみると、東芝の数値が著しく劣ることはわかる。売上高こそ3社内2位ではあるが、収益力ではほかの2社に大きく引き離され、企業としての安定性を表す自己資本比率などでもほか2社はもとより、ほかの大手電機メーカーと比較しても下位のレベル。誇れるものは規模だけであり、張り子の虎といえよう。
【総合電機大手3社の財務データ(2015年3月期連結ベース)】
・売上高(日立を1とした場合の比):日立1、東芝0.68、三菱電機0.44
・営業利益(同):日立1、東芝0.28、三菱電機0.53
・自己資本比率:日立23.6%、東芝17.1%、三菱電機45.4%
・1株あたり純資産:日立606円、東芝256円、三菱電機858円
・直近3期ROE最高値:日立11.2%、東芝6.5%、三菱電機13.9%
優良企業と呼ぶにはほど遠い実情や複数期にも及ぶ不正会計が露見してもなお、東芝のイメージはそれほど毀損していない印象はある。これも有価証券の虚偽記載とその提出の大幅な遅延など上場廃止の基準に抵触していながら、上場維持を決めた東京証券取引所のお手盛りや、古くは東芝会長、経団連会長、臨時行政調査会長を歴任した土光敏夫氏、現在では同社会長、東証会長を経て日本郵政社長を務める西室泰三氏に至る華麗な人脈の威光のためだろうか。
サザエさん効果
日本を代表する大手メーカー、政府与党にも影響力を持つ経営者OB、そして何より大広告主である点が追及をためらわせたのか、マスコミの報道も総じて迫力を欠くものだった。特に経済メディアには、批判なのか擁護なのか、理解に苦しむような玉虫色の記事さえあった。