牛豚肉等や加工肉に発がん性認定、複数機関が「確実」…食品安全委は反論
これに対して食品安全委員会は、この分類は人に対する発がん性があるか否かの「根拠の確かさ」に基づく分類にすぎず、物質の発がん性の強さや、発がん性物質の摂取量(暴露量)などによる影響はあまり考慮されていないとしている。
また、疫学データを分析したというが、そのためにはさまざまな関連する要因(交絡要因)を考慮する必要があり、簡単に答えを出せるわけではない。それにもかかわらず、IARCが「食肉や加工肉はリスクが高い」ととらえることは適切ではないとしている。
本来の職分を越えて手を出した?
では、食品安全委員会はなぜIARC発表を批判したのか。それは、IARCがその本来の職分を越えて手を出したから、ということのようだ。
食品を食べることによって、発がん性物質などの有害な要因(ハザード)が、人の健康に及ぼす悪影響の発生確率と程度を「リスク」と呼ぶ。つまり、リスクは、食事による発がんなどの可能性を指す。そして、食べる量などを含め、発がん率などについて定量的に評価することを「リスク評価」という。
日本の食品安全委員会やEUのEFSA(欧州食品安全機関)、JECFA(FAO/WHO合同食品添加物専門家会議)などはリスク評価をする「リスク評価機関」だ。食品の人の健康への影響については、リスク評価機関でのリスク評価が必要だ。リスク評価機関ではないIARCが、「食肉や加工肉はリスクが高い」と“評価”するのは不適切だ、というわけだ。
矢継ぎ早の4日間の攻防戦
今回、IARCが発表したのが10月26日(月)で、食品安全委員会の見解発表が翌27日。29日にはWHOが「IARCの評価は、WHOが2002年に公表した『食事、栄養及び慢性疾患予防に関する報告書』の内容を再確認するものであり、がんのリスクを減らすために加工肉の摂取を適量にすることを奨励したものである。加工肉を一切食べないよう求めるものではない」と、IARCの“評価”を援護した。
さらに同29日、国立がん研究センターが「赤肉・加工肉のがんリスクについて」【編注5】と題して、IARCの評価の解説と自らのデータをセットで情報提供し、IARCを強力に援護した。この間、わずか4日間。矢継ぎ早の攻防戦が激化した。
その「赤肉・加工肉のがんリスクについて」によれば、IARCの「評価は全世界地域の人を対象とした疫学研究(エビデンス)、動物実験研究、メカニズム研究からなる科学的証拠に基づく総合的な判定」とした上で、こう続けた。
「加工肉について“人に対して発がん性がある(グループ1)”と、主に大腸がんに対する疫学研究の十分な証拠に基づいて判定」
「赤肉については疫学研究からの証拠は限定的ながら、メカニズムを裏付ける証拠がある」