ビール世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ、ベルギー)は、同2位の英SABミラーを約13兆円で買収する。世界シェアは2014年でABインベブが20.8%、SABミラー9.7%。単純合算すると30.5%となり3割を握る。時価総額は30兆円を超えるが、これはトヨタ自動車の25.6兆円をも上回る。まさに、超巨大企業の誕生だが、日本のビール会社買収に動く可能性はあるのだろうか。
これまで、海外のビール大手は日本の同業会社に食指を伸ばさなかった。その理由は(1)日本では酒税体系が複雑、(2)流通構造と商慣行が独特な上、イオンなど小売業者の力が大きい(特に家庭向けの売価決定権は小売業が持っている)、(3)長らく円高基調だった、(4)少子高齢化の進行で市場拡大を見込めない――などだった。
買収に動いたところで、投資に対するリターンを見込みにくかった。だが、ビール類(ビール、発泡酒、第3のビール)の税率はこれから段階的に一本化されていく方向だ。また、アベノミクス以降は円安基調が続いている。国内首位のアサヒでも時価総額は約1兆8000億円だから、お買い得感は増している。
大再編の波
世界のビール産業にM&A(企業の合併・買収)、再編の波が本格的に押し寄せたのは、2000年代に入ってからである。背景には世界的な“金余り”があった。
再編劇の主役を演じてきたのは、08年に「バドワイザー」で知られるアンハイザー・ブッシュを約5兆円で買収したインベブであり、この買収でABインベブは誕生した。ABインベブがあるベルギーのビール市場は、米国の25分の1程度の規模。このため、早くから海外に目を向け、M&Aにより短期間での規模拡大を戦略的に進めてきた。
1996年で比較すると、インベブの前身であるインターブリューの年間販売量は341万klで世界6位。8位だったキリンビールの322万klとあまり変わらない。この年の1位は当時のアンハイザー・ブッシュで1107万klを販売した。トップ企業の3分の1にも満たなかった小さな会社が、12年後には逆に呑み込んだのだった。
インターブリューは00年に英ウィットブレッドのビール部門を約660億円で買収したのが拡大の始まり。その後、約3900億円を投じ英バス(00年)、約2000億円で独大手のベックグループ(01年)と相次ぎ傘下に収めていく。
そして、04年8月、ブラジル最大手のアンベブを約1兆2000億円で買収。インベブとなる。実はアンベブCEO(最高経営責任者)だったのが、効率的な経営手法で知られるブラジル人のカルロス・ブリト氏。買収から1年半後にインベブCEOとなるブリト氏は、無類の“コストカッター”として知られる。