日本電産は2006年6月に、証券会社や銀行など金融機関の出身者を集めた専任部署「企業戦略室」をM&Aに関する情報が集まる東京に新設。室長に迎えた金融機関の元副社長をはじめ、国内外で企業買収の実務や仲介業務に携わった経験者を集めた。永守氏の言葉を借りれば、「知的ハードワーカー」集団を戦略的に形成した。近年、M&Aをめぐっては投資ファンドが台頭してきているため、この対策でもあると考えられる。
日本電産だけでなく、京セラ、オムロン、ローム、堀場製作所、日本写真印刷、ニチコンなどの京都企業が、日本電産ほど目立たないものの、100億円前後の買収を実現している。派手な買収劇で話題を呼んだ日本電産も、このところ100億円前後のM&Aを注視するようになってきた。この点でも、津賀社長の発言とオーバーラップする。
日本電産のホームページには、次のような「中途採用情報」が記されている。
<「21世紀の世界企業を創造する!」という壮大な目標のもとに、積極的なM&Aを展開し、いまや32カ国に230社を超える企業グループを形成。互いの技術の融合により、積極果敢に新分野への参入を図っております。成長企業の日本電産では、様々な職種から転職し、グローバルに活躍している中途採用社員が多数在籍しています。世界を舞台にあなたのご経験を活かしてみませんか>
「日本電産を真似ましたか」と直感した所以である。かつて、先発企業の真似をするだけでなく、改良した商品を発売し、強力な販売力に物をいわせて一挙にシェアを拡大してきた松下電器産業(現パナソニック)は「真似した電器」と揶揄された。しかし、経営戦略論の観点から見ても、決した劣った手段ではない。実は、リスクを軽減できる巧妙な戦略である。商品だけでなく、M&Aにおいても真似する戦略が功を奏するかもしれない。
「真似した電器」の本領発揮なるか
ただし、M&Aに焦点を当てた専門部署を置き、優秀なサラリーマンが集まるとどうなるか。
何がなんでもM&Aをしなくてはならないと考えるようになる。なぜなら、質はもちろんのこと数も「成果」として評価されるからだ。「がんばりましたが、いいM&A先が見つかりませんでした」では許されない。「大型M&Aでなくてもいい。100億円前後の案件を見つけてこい」と命じられると、「長い目で見ている」のではなく、「すぐに案件を見つけてこい」「100億円前後のM&Aならすぐに実現できるだろう」と期待されていると思い込んでしまう可能性がある。