「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数ある経済ジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
11月9日夜、東京都内でひとつのトークイベントが行われた。
「トップアスリートの経験をアスリート自身の言葉から」――と資料に記されたトークショーで登壇したのは、陸上の為末大氏とビーチバレーボールの朝日健太郎氏だ。ともに現在は、テレビ・雑誌などのメディアで活躍しながら、競技の普及にも力を注ぐ。
それぞれの現役時代の裏話も交えつつ語ったのは、これまでの試行錯誤で得た「知見」だ。今回は2人の現役時代の取り組みぶり、現在の活動などを紹介しながら、引退後のトップアスリートの「経験知」に学ぶものを考えてみたい。
現役時代、「どんな思い」で競技と向き合ったか
最初に2人の現役時代の実績を紹介しておこう。
為末氏は1978年広島県広島市出身。当初は陸上100メートルの選手で、高校時代に400メートルハードルに転向した。同県立広島皆実高校から法政大学に進み、卒業後は大阪ガスに入社したが1年半で退社し、プロ陸上選手として活動。2001年世界陸上エドモントン大会(カナダ)、05年同ヘルシンキ大会(フィンランド)の同種目で銅メダルを獲得。五輪は00年のシドニー大会(豪州)、04年アテネ大会(ギリシャ)、08年北京大会(中国)と3大会連続出場したが、こちらの最高成績は準決勝進出だった。
朝日氏は1975年熊本県熊本市出身。鎮西高校から法政大学に進み、卒業後はサントリーに入社。高校時代は全国高等学校バレーボール選抜優勝大会(春の高校バレー)と全国高等学校総合体育大会(インターハイ)で準優勝、大学では全日本大学選手権で優勝、実業団時代はVリーグでの3連覇に貢献した。02年にビーチバレーに転向し、プロビーチバレー選手として活動。五輪には08年北京大会、12年ロンドン大会に出場、北京五輪では予選ラウンドを2位で通過し、決勝では9位となった。
400メートルハードルは個人種目、バレーボールはチーム種目と違いがあり、2人の性格も異なるが、現役時代の競技に取り組む姿勢には似た部分もあったようだ。
たとえば当日のトークショーで、「嫌なコーチ」というテーマで話し合った際、6人制バレー時代の朝日氏は、「(選手起用という人事権を持つ)コーチに対して、従順な選手を演じながら内心反発して、徐々に自分の独自性を打ち出して主張した」という。
一方の為末氏は、コーチの指導方法が自分に合わないと感じてからは、コーチ不在で独自の練習方法を追求した。それ以前に米国人選手から「コーチを替えた」という話を聞き、「(日本では難しいが)コーチを選ぶことができる」という事実に驚いたという。