9つの質問から見えてきた「本質」
上記で紹介したテーマは、会場に足を運んだ参加者から事前に募った質問のひとつだった。これ以外に「天職と適職」「中長期的なモチベーション」「勝つ人・勝たない人」「スランプに陥った時」といった9つの質問に答えるかたちでトークショーが進行した。この中から、ビジネスパーソンに参考になりそうな部分を2つ紹介しよう。
「天職と適職」について朝日氏は、「適職を繰り返すと天職になる」という考えを明かした。小学生時代にサッカー少年だった同氏は、「自分に合わない」と感じ、小学6年生で175センチ、中学3年生で193センチだったという高身長を生かすためにバレーボールを始めた。だが、当初は勉強のほうが好きだったという。やがてバレーに没頭するが、26歳でビーチバレーに転向。「おかげで37歳まで現役生活を続けることができた」と話した。
ちなみにビーチバレーに転向した理由は、「トップレベルに近づけば近づくほど、『好き』が『義務』になっていき、徐々に心が疲弊し、周囲からは期待されたが“燃え尽き症候群”になりかけたから」だと明かした。ちなみにVリーグ3連覇達成時は、歓喜するほかの選手やスタッフに比べて、自身はどこか冷めていたという。
為末氏は、「ほかの種目を知らないと幸せ(天職)に感じる」と語り、2人の金メダリストの例を紹介しつつ、こう語った。
「内村航平選手は、体操選手だった両親が体操クラブ(スポーツクラブ内村)を開設し、3歳から体操を始めた。吉田沙保里選手も、自宅でレスリング道場を開いていた元レスリング選手のお父さんの指導で、3歳からレスリングを始めた。実はメダリストも、その種目を自分の意思ではなく始めたケースが多い。でも大きな大会に勝つことで幸せになれる」
「勝つ人・勝たない人」のテーマでも、2人の考えは一致した。朝日氏は、「勝つ=五輪に出場すると定義した場合、勝つ人は若い選手でも突き抜けた感がある。スポーツ一辺倒というタイプよりも、好奇心が強くて話術も面白いタイプが勝つ」と指摘。
為末氏は、「陸上の競走の場合、自分の走り方を違う言葉で説明できるかどうか。『地面反力で走る』といった業界用語で話す選手よりも、『バランスボールを上から落とすと弾むように、そうした反発力を身体の中に蓄えている』と説明する選手のほうが強い。原理を理解しているかどうかの違いだろう」と指摘していた。