この女性への一言の謝罪もなかったことから、渡邉氏はネット上で批判を浴びた。ワタミフードサービスは12年に「ブラック企業大賞」の市民賞、翌13年には大賞を受賞した。「自分の正義のみを重視し、被害女性に一切考慮しない思慮に欠けた発言」というのが受賞の理由である。
ワタミは遺族との面談や謝罪を拒否。女性の遺族はワタミや渡邉氏に損害賠償を求める民事訴訟を起こした。15年12月8日、東京地裁で、日本ではそれまで前例のなかった「懲罰的慰謝料」(計1億3365万円)を認める内容で“和解”が成立した。付帯事項として過重労働再発防止策を作成することが盛り込まれた。
「道義的責任はあるが、法的責任はない」と争う姿勢を示していた渡邉氏は、頑な態度を突然翻し、和解交渉の場に現われ、自殺した女性従業員の両親に謝罪した。「自殺した彼女の墓参りに行きたい」との意思表示をしたが、遺族は墓参を拒否した。
10月7日の事業戦略説明会では、「復帰によってブラック企業に戻るのではないか」との懸念が示されたが、渡邉はこう答えた。
「反省すべきところは反省する。今までのことは一切振り返らない」
縮小均衡経営に対する危機感
ワタミは1986年、渡邉氏が創業。居酒屋「和民」で居酒屋ブームの先駆けとなった。宅食、農業、介護に進出するなど一気に業容を拡大した。しかし、「ブラック企業」批判による企業イメージ悪化で、主力のチェーン店「和民」や「わたみん家」の客離れにつながった。不採算店舗の閉鎖に伴う減損損失が発生し、2014年3月期には上場以来初の49億円の最終赤字に転落。翌15年3月期も128億円の赤字と2期連続の赤字に沈んだ。創業者の渡邉氏の復帰は、縮小均衡経営に対する危機感の裏返しである。
「渡邉さんは社内で『売上高5000億円を目指す』と大風呂敷を広げている」(ワタミ関係者)
06年にテレビ番組『カンブリア宮殿』(テレビ東京)に出演した時、渡邉氏は「たとえ無理なことだろうと、鼻血を出そうがブッ倒れようが、無理矢理にでも1週間やらせれば、それは無理じゃなくなる」と発言した。働き方改革が声高に叫ばれるなか、ワタミに復帰する渡邉氏は“ブラック企業”と批判されることを厭わず、「鼻血を出すまで働け」と再びハッパをかけるのだろうか。
(文=編集部)