知名度向上による集客は、家族連れなどの取り込み以上に大きかったのではないか。串カツ田中を知って興味を持った人が店に行くようになり、それにより客数が向上した面がありそうだ。ただ、そうした人たちすべてをリピーターにするのは難しい。興味本位で行った人はリピーターになりづらいため、反動としてその後に客数が減った面もあるだろう。
他方、禁煙化で客単価が低下したことも大きい。新たに家族連れを開拓することに成功し子ども客が増えたが、それにより「お通し」が減ったほか、単価の低いソフトドリンクの注文が増え、客単価の低下につながった。また、集客に向けた割引キャンペーンを実施したことも、客単価の低下につながっている。
実際、禁煙化後は顕著に客単価が落ち込んだ。禁煙化が始まった18年6月は前年同月比5.0%減と大きく落ち込んでいる。その後もマイナス傾向が続き、禁煙化以後19年10月までで客単価が前年を上回ったのは19年9月のみとなっている。
客単価が落ち込んでも、客数増で補えれば問題はない。しかし、そうはならなかった。18年12月~19年10月の客単価は、前年同期比3.3%減と落ち込んだが、客数が1.1%増と微増にとどまり客単価の落ち込みを補いきれず、売上高は2.3%減とマイナス成長となっている。
盗撮問題の影響
業績不振は、昨年12月に起きた「盗撮問題」の影響も大きいだろう。フランチャイズ加盟店が神奈川県内の4店舗の更衣室に無断でカメラを設置し、その映像が流出してしまったのだ。禁煙化で知名度向上とイメージアップに成功した矢先の出来事で、これにより串カツ田中のイメージは大きく低下した。
同問題が起きた翌月以降、客数は伸び悩んでいる。18年12月は18.4%増と大きく伸びていたが、19年1月は5.3%増、2月が6.2%増、3月が4.1%増と伸び悩んだ。そして4月以降はマイナス傾向が続いている。盗撮問題によるイメージ低下が少なからず影響したと考えられる。
昨今はイメージ低下で客離れが起き、業績が悪化するケースが少なくない。たとえば、回転ずしチェーン「くら寿司」と定食チェーン「大戸屋ごはん処」は、アルバイト従業員による不適切な動画が拡散して炎上する「バイトテロ」がそれぞれ今年2月に起きたが、それによりイメージが低下し、それ以降の客数はどちらも大きく落ち込んでいる。
大塚家具や居酒屋大手のワタミもイメージ低下で業績が悪化した。大塚家具は実の親子が経営権をめぐって争い、ワタミは過労自殺者を出したが、その後に業績が悪化している。
串カツ田中もこれらの企業と同様、盗撮問題によりイメージが低下し、客離れが起きた面があるだろう。
このように串カツ田中は成長に急ブレーキがかかったが、店舗数が大きく増えたことで18年12月~19年8月期の連結決算は大幅な増収増益となっている。売上高は前年同期比36.4%増の74億円、営業利益は30.0%増の5億1400万円だった。純利益は14.5%増の3億8400万円だった。店舗数は期中に28店増え、期末には194店になっている。
店舗網の拡大で決算は良かった。とはいえ、既存店の不振が長く続けば深刻な状況に陥らないとも限らない。ここが踏ん張りどころといえそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)
●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。