消費税軽減税率で社会的大混乱の懸念…不可能な「線引き」めぐり一部業界に悪影響も
大きい社会的コスト
しかも、線引き問題は食品という領域だけで問題は収斂しない。「日経ビジネス・オンライン」の筆者連載コラムでも指摘したように、スーパーやコンビニなどでよく見かける「おまけつきのお菓子」が軽減税率の対象となるかどうかも不透明であり、仮に軽減税率の対象にする場合、ダイヤモンドなどの宝石や高級時計などのブランド品と、お菓子などの飲食料品をセット販売することで、税法の網の目をすり抜け、軽減税率の適用を受けようとする試みが出てきても不思議ではない。
このようなセット商品について、主要部分が食料品以外のケースは軽減税率の対象外とする措置も考えられるが、「主要部分」の解釈を含め、線引きに一定の限界があることは明らかである。
場合によっては、何に対して軽減税率を適用するかの判断をめぐり、課税当局と事業者との間で訴訟が起こり、何年間も法廷闘争を繰り広げなければならなくなる可能性があり、社会的なコストは非常に大きい。
以上の線引き問題のほか、軽減税率は以下のような問題も抱えている。
・線引きをめぐって、新たな政治利権の温床につながる可能性
・軽減税率の導入は、低所得世帯よりも高所得世帯への恩恵が大きいという問題
・約1兆円という減収額に対する財源確保の問題
・低所得者対策は「簡素な給付措置」でも対応可能(あるいは、マイナンバーが始まれば「給付付き税額控除」は可能)
このため、2016年の国会では、野党が細かい質問を大量に行い、麻生太郎財務大臣の答弁が行き詰まり、国会審議が紛糾する可能性が高い。野党は「手ぐすねを引いて待っている」はずであり、「軽減税率国会」となる予感がする。
また、国会運営をうまく乗り切っても、欧州では課税当局と事業者との間で訴訟が頻発していることから明らかなように、事業者が混乱する可能性も高い。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)