2015年12月6日の日曜日、筆者が所属する東京理科大学の技術経営専攻では、大学院で学ぼうとする社会人の入試面接が行われようとしていた。そこに飛び込んできたのが、JR横須賀線の運転見合わせというニュースであった。幸い、どの志願者も影響を受けることなく無事に入試面接に臨めたが、結局、横須賀線はこの日12時間半にもわたり一部区間運転できない状態が続いたのである。これほど長い運転見合わせはなぜ起こったのであろうか。
“水没状態”にある東京駅地下ホーム
横須賀線が止まった理由は、地下水が漏れて線路が冠水したためだ。たかが地下水とあなどることはできない。なにしろ12時間半も電車を止めたのだから。横須賀線と総武線は東京駅地下ホームでつながっているが、地下27メートルにあるホームが「水没状態にあること」に気づく人は少ない。これについて「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社/2013年8月24日号)が警告を発している。
この地下ホームは1972年に建設されたものだが、当時の地下水の水位はホーム下8メートルの位置にあった。ところが25年ほどの間に地下水位が20メートルも上昇し、今や地下ホームの天井よりも地下水位のほうが高くなってしまっている。まさに東京駅地下ホームは地下水の中に水没しているのだ。
水中に空気のある容れ物があれば浮力で浮かぶことになる。地下ホームも例外ではない。その対策として、重さ200キログラムもの鋼鉄製のイカリ(アンカー)を70本も打ち込んでホームを固定しているという。これは13年当時の数字で、今はその数が130本になっているという報道もある。
問題解決が新たな問題の引き金に
地下水位が上昇しているのは、なにも東京駅周辺に限ったことではない。場所によってはもっと深刻で、50メートルから60メートルも地下水位が上昇しているところもあるというから驚きだ。ビルの地下も場所によっては水没しているかもしれないのだ。
なぜこれほど地下水位が上昇したのだろうか。それは、環境問題を解決しようと規制を行ったことが原因といわれている。
高度成長時代の東京都では、工場などによる地下水の汲み上げが原因で地盤沈下が起きるという問題が多発した。そこで東京都は、1970年代初頭から厳格な揚水規制を敷いてきた。そのかいあって地盤沈下は食い止められたものの、今度は地下水位の上昇という問題を引き起こしたのである。