2016年は申(さる)年で戦後2度目の「丙申(ひのえ さる)」となり、社会は激動するといわれている。
欧米製薬大手の間では、事業の再編が加速している。仏サノフィと独ベーリンガーインゲルハイムは15年12月、両社の事業交換に向けて交渉に入った。サノフィは大衆薬部門をベーリンガーから取得し、代わりに動物用医薬品部門をベーリンガーに譲渡する。動いたのは4月に就任したばかりのサノフィのオリビエ・ブランディクール最高経営責任者。再編の仕掛け人と呼ばれている。
両社の事業交換が成立すれば、サノフィの大衆薬の売上高は業界トップクラスに浮上。ベーリンガーは動物薬で業界2位になる。ベーリンガーの子会社である日本の大衆薬大手、エスエス製薬(石橋利哉社長、非上場)はサノフィに移る。米製薬大手のファイザーは15年11月、アイルランドの同業アラガンとの合併で合意した。買収総額は19兆2000億円(1600億ドル)に上り、製薬業界のM&A(合併・買収)では最大規模になる。
日本の製薬業界は長きにわたり太平の夢をむさぼってきた。国内の大型再編は05年の山之内製薬と藤沢薬品工業の合併(現アステラス製薬)、三共と第一製薬の経営統合(現第一三共)以来、10年間途絶えたままだ。
「日本には世界のベスト10に入るような製薬会社が1社もない。合併して大きな会社をつくるべきだ」と菅義偉官房長官は、14年春の産業力競争会議で武田薬品工業の長谷川閑史社長(当時)に檄を飛ばした。だが、笛吹けど踊らずの状態が続いてきた。
業を煮やした厚生労働省は、15年9月に発表した「医薬品産業強化総合戦略」のなかで、「日本の製薬メーカーもM&A等による事業拡大も視野に入れるべき」と踏み込んだ。決め手は政府が安価な後発(ジェネリック)医薬品の普及率を20年度までに8割以上にする方針を打ち出したこと。これが新薬メーカー再編の背中を押すことになる。
主戦場は、がんや認知症など新薬開発の難易度が高いバイオ医薬品だ。小野薬品工業はがん免疫薬「オプジーボ」が肺がん治療薬として承認され、これを材料に株価は急騰。15年12月18日には2万2400円と上場来高値をつけた。ただ、1月14日には1万8000円まで値下がりした。
カギ握る銀行
今後、銀行主導の再編もあり得る。
三菱東京UFJ銀行をメインバンクとする製薬会社は、小野薬品のほか排尿障害改善薬の日本新薬、慢性疼痛治療薬の持田製薬などがある。三菱ケミカルホールディングスの傘下の多発性硬化症薬の田辺三菱製薬は統合の嵐のなかで、どう生き残りを図るのか。