自動車であれば、部品は種類別にまとめられているのが一般的だが、HF120ではエンジンに組み付けられるすべての部品は、あらかじめ部品の塊ごとにその塊を形成する各部品の型があり、ひとつのケースにまとめられている。万が一にも組み付け忘れがあれば、一目でわかる仕掛けだ。
また、すべての部品に重要なシリアルナンバーが振られ、どの部品がどのエンジンに組み付けられたかが確実に記録される。仮にも後から部品の不備などが判明した場合、トレーサビリティは完璧だ。
そして、目につくのが、組み立て作業が行われている横に設置されたいくつもの大きなモニターだ。ひとつのエンジンに対してひとつ、設置されているのである。そこには、作業手順に加え、組み立ての途中で確認すべき数値などが記されている。作業員は逐一、求められる数値を計測して入力し信頼性を担保していくのである。
前述したように、航空機産業に求められる品質の水準は、自動車とはケタ違いなのは間違いない。ただし、これは航空機産業のほうが自動車産業より進んでいるということではない。
ホンダ エアロ インク社長の藁谷篤邦氏は、「航空機と自動車では、質の違うむずかしさがあります」として、次のように語る。
「自動車産業は、高品質のものを大量につくるという点では航空機産業より進んでいます。その点では、われわれも取り込めるものは取り込んでいます」
HF120は2人一組の「セル生産方式」(1~数人で製品の組み立て作業を完成まで行う生産方式)で、2日間ほどかけて組み立てられていた。目下の生産体制は月10台だ。ただし、ラインなどの設備は必要ないため、人員を投入すればいつでも増産可能という。
23年ぶりの快挙
米国を飛行する民間機用航空機エンジンの型式証明は、FAAによって行われる。現在、型式証明を取得しているのは、米、英、仏の企業、そしてホンダとわずか4カ国にすぎない。あのドイツでさえ取得していない。それほど、航空機エンジンを開発し事業化することは難しいのだ。
加えて、航空機エンジンそのものの型式証明のほか、生産もまたFAAからの「製造認定」を取得する必要があるという。ホンダ エアロ インクがその認定を取得したのは2015年3月だ。23年ぶりの快挙だった。