高品質・低価格アピールの有効性
以上をまとめると、企業が「高品質・低価格」をアピールしたとしても、「高品質」と「低価格」のメッセージを狙い通りに消費者に伝えることは難しいと結論づけられます。消費者は、アピールの対象となる商品の価格帯によって、どちらかを割り引きますので、その使用については慎重に検討したほうがいいかもしれません。安易な使用は、消費者の知覚を意図しない方向に導く可能性があります。
前述したように、高価格品では、高品質の提供は不可欠になりますので、品質の知覚を下げやすいこのアピールは適さないといえるでしょう。また、低価格品にこのアピールを採用すると、知覚品質を高められる効果はありますが、それは高価格品に形成される「高品質」とは違い、「低価格の割に品質がいい」などの低価格を基準とした知覚になります。つまり、低価格品にこのアピールを採用しても、その効果は限定的であるといえるでしょう。
消費者はそうした商品やサービスを求めている一方で、実はそのメッセージ通りには受け取らないのです。技術革新やその他の企業努力により、高品質を維持しながらも低価格を実現している企業は実際にあると思います。もしも企業がそのことを消費者に伝えたいのであれば、どのようにしてそれが実現できたのかを、わかりやすく伝える努力が必要になるでしょう。単に「高品質・低価格」をアピールするだけでは、十分な効果は得られないのです。
(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)
※参考文献
【註1】白井美由里(2006)『このブランドに、いくらまで払うのか-「価格の力」と消費者心理-』、日本経済新聞出版社.
【註2】Shirai,M.(2015),“Impact of ‘High Quality, Low Price’ Appeal on Consumer Evaluations”(2015),Journal of Promotion Management, 21(6),pp.776-797.
【註3】白井美由里(2014)「高品質・低価格ブランドに対する消費者の評価 -ユニクロのケース-」、『横浜経営研究』、35 (2),pp.45-57.