スタバとサザコーヒー、新型コロナ渦中でも盛況…店員も客もマスク姿、窓開け+毛布で飲食
「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。
「この周辺の企業はリモートワークも多く、社員が出社する場合は『申請書』が必要という会社もあると聞きます。いつもの営業フェアに比べて静かですよね」
3月2日、サザコーヒー丸の内KITTE店の店長はこう話した。店があるのは東京駅前の商業施設「キッテ(KITTE)」だ。
1969年創業のサザコーヒー(本店・茨城県ひたちなか市)は、2月29日から3月3日まで「サザコーヒー50歳感謝まつり」という営業フェアを国内全14店で開催した。
政府が新型コロナウイルス感染拡大防止のために各種イベント自粛要請を行うまでは、各社の対応は分かれた。サザは代表取締役副社長の鈴木太郎氏が2月下旬、意向をSNSで伝えた。内容のポイントは以下のとおりだ。
「今年は『窓あけ 換気営業』をいたします」
「このウイルスは空気感染するので密室ではなく、喫茶も物販も空気の流れのある環境で営業します」
「環境が整わない場合は営業を断念することもありますが、インターネット通販はリスクも少なく、非接触型の関わり方なのでお勧めいたします」
それを受けての3月2日だった。視察した午後2時過ぎの店内は、いつもの営業フェアの活気はない。それでもお客さんはマスク姿で訪れ、コーヒーを楽しんでいた。筆者も1杯700円の「Ninety Plus社 ゲイシャラテ」(通常は1杯3000円)を頼んだ。
コロナ感染拡大防止で消費活動の自粛が続くなか、人気カフェはどんな思いで営業を続けるのか。店舗の現状を紹介しつつ、終息後の消費者心理も考察したい。
スタバが「リリース」に込めた思い
同じ3月2日、スターバックスコーヒーがニュースリリースを発信した。題名は「新型コロナウイルス感染拡大と予防に関する店舗オペレーション変更のお知らせ」だ。
同日時点で、国内全店舗(1500店超)にて実施を決定している内容を明記し、理解を呼びかけた。具体的には「お客様が持参したタンブラー、店側が提供するマグカップやステンレスフォークやナイフの使用を中止」、(代わりに)「紙カップやプラスチックフォークでの提供」「店舗パートナーのマスク着用や手洗い回数の頻度増」「テーブル、ドアノブなど接触の多い箇所について、頻度の高い消毒と衛生管理の徹底」などだ。
同社は、「安心安全を前提に、このような状況だからこそ、一杯のコーヒーを通じて、ほっとしたひと時をお客様にお届けすることも、重要な役割だと考えています。刻々と状況が変わる中なので、日々、政府や自治体からの方針を注視し、現時点でお客様及びパートナーにとって感染拡大防止や予防になると思われる対策を進めます」と語った。
その後の3月12日、「スターバックス コーヒー テラスウォーク一宮店」に勤務する従業員1人の新型コロナウイルス感染を同社は発表した。感染が確認された従業員は保健所の指定病院に入院し、店舗の他の従業員、濃厚接触者とみなされる従業員は3月13日から自宅待機。同店は同日から一時休業。消毒等を実施し、安全性が確保できるまで営業を見合わせている(本稿脱稿時点)。
満席だった、都内のスタバ
時期は前後するが、3月6日の夕方、東京都内の「スターバックス コーヒー 新宿サザンテラス店」を訪れた。別件の取材のついでに、立ち寄ってみようと考えたのだ。
周辺を歩く人の姿は少なかったが、店に入ると盛況だ。サザコーヒーのキッテ店と同じく、来店客も店員もほぼ全員がマスク姿で、お客さんも飲食を楽しむ時以外はマスクを外さない。それを除くと「日常のような光景」だ。
「マスク姿で接客するのは、こんな時期だからとお客様にもご理解いただいているようで、それを気にされる方はおられません。ただ、こちらの顔も半分隠れてしまい、接客する時の表情が伝わらない。それでも誠意を込めて対応したいですね」
ドリンクを頼みながらやりとりした男性店員は、こう話した。店内は満席で、ドリンクを片手に外に出るとテラス席も満席。立ち飲みで来店客の過ごし方を観察した。その後、3月16日午後にも同店を視察したが、店内はほぼ満席。テラス席は少し空席があった。
「カフェ」に本当にお客が戻るのか
イベント自粛や外出手控えの影響で、飲食店の大半は大打撃を受けている。スタバの盛況は、最大手のブランド力ゆえの現象で、小さな個人店にとっては客足が遠のき、死活問題だ。カフェに本当にお客が戻るのか。
少し引いた視点で「喫茶業界」全体の数字を紹介しよう。
業界団体である「日本フードサービス協会」の調査データによると、外食産業のうち、カフェを含む「喫茶店」の市場規模は1兆1645億円(2018年)だ。
1977年に1兆円の大台に乗った後、82年には1兆7000億円台に達したが、その後は減り続け、2009年には1兆45億円と大台割れ寸前に落ち込んだ。だが、再び盛り返した。現在は4年連続1兆1000億円台で、最新数値も増えている。
11年3月11日の東日本大震災後、街には沈滞ムードが漂っていた。筆者は10カ月後にガレキだらけの被災地を訪れ、さまざまな飲食店関係者に話を聞いた。被災地のカフェは大打撃を受けたが、前記のデータでは喫茶市場全体は微増となっている。
3.11の被災者が語った「やっとコーヒーが飲める」
12年2月、宮城県気仙沼市の人気店「アンカーコーヒー」を取材した。津波で流された後、プレハブ建物で再開した仮店舗。入口で会った女性2人組は、筆者にこう話した。
「やっとコーヒーを飲める状況になったので、震災後初めての来店です。以前はカフェラテをよく飲んでいたけど、今日はおススメの抹茶ラテでした」
こう話して笑顔を浮かべた。被災した2人は、それまで後片付けに追われて、ゆっくりコーヒーを楽しめる状況になかった。1年近くたち、ようやくその時間を手に入れたという。
仙台市の「カフェ バルミュゼット」店主からは、こんな話を聞いた。自らの店も被災したが、店の再開の傍ら、仲間と連携して石巻市や女川市の小中学校や総合体育館を回り、被災者に提供するコーヒーをペーパードリップで抽出し、紙コップで提供した。
支援活動中に聞いたのが、「ああ、やっとコーヒーが飲めるようになった」という、女川で被災した男性のひと言だった。親交のあった石巻の喫茶店マスターが津波で亡くなって以来、恐怖でコーヒーが飲めなくなった。それが支援のコーヒーに手を伸ばし、「悪い記憶を、それまでのいい記憶に変えていかないとね」と語ったという。
サザコーヒー本店は、窓開け+毛布で接客
現在の話に戻ろう。サザコーヒーを半世紀前に創業した鈴木誉志男氏(現会長で太郎氏の父)は、今でも茨城県の本店で接客し、妻の美知子氏(社長)と共に皿洗いも行う。
「息子の太郎は、店の換気に注力して、本店でも窓を大きく開けています。冷たい風が入り、暖房を強くしても寒い。お客様へのホスピタリティは下がります」
こう話し、誉志男氏は続ける。
「そこで、ひざ掛け毛布をたくさん用意しました。お客様の居心地を重視すると、この時季に窓を開けないほうがいいのですが、コロナ対策ではそうはいきません。小さなチェーン店は、風の強い日は窓の開け方を少し狭くし、風のない日は大きく開ける。こんな時でもお越しになる方に、少しでも心地よく過ごしていただきたい」
ちなみに冒頭で紹介した営業フェアは、本店では大成功だったという。かねてからコーヒー豆も売れる本店で、自宅でコーヒーを楽しむ「まとめ買い」が発生したからだ。来店客には全員、高級コーヒー「ゲイシャ」のドリップオン(1杯取り)を惜しみなくプレゼント。サザの持ち味である“タダコーヒー”も行った。3月中旬の週末も好調だと聞く。
新型コロナウイルス対策がいつまで続くか、本稿執筆時点ではわからない。今後の状況次第では営業中止もあるだろうが、現状では、人気店はこんな接客姿勢で店を続ける。
外出自粛で、コーヒーを自宅で楽しむ人もいるだろう。コロナ対策が終わった時こそ、愛好家にとって、心から「やっとコーヒーが飲める」のだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)