販売不振の原因は、販売価格の高騰だ。3月の1戸当たりの販売価格は5638万円。前年同月比の上昇は10カ月連続。これまでのピークだったバブル期の6100万円に近づいている。15年度(15年4月~16年3月)の平均価格は5617万円。91年度(5822万円)以来、24年ぶりの高い水準となった。
日銀のマイナス金利導入で住宅ローン金利が低下するといっても、販売価格がこれだけ高騰してしまえば庶民は手が出せない。
在庫となっているマンションを売るために、価格を引き下げる必要が出てくるだろう。マンション販売業者の施工業者へのコスト圧縮の要求は、一段と厳しいものになるだろう。そのため、大手ゼネコンはマンションの受注に慎重になっている。採算スレスレで受注した物件が、欠陥マンションなどと指摘されたら大損失となる。全棟建て替えの恐怖が、ゼネコンの営業部隊を委縮させている。
長谷工はマンションが主力だ。土地の手当て、計画の立案から施工まで一貫して手掛けている。しかも首都圏でのマンションの一本足打法といっていい。マンション事業は中期的に見て、少子化で先細りする心配がある。首都圏のマンション市場はバブル崩壊前夜の様相を呈してきたという厳しい指摘もある。
長谷工は高齢者事業を拡大
そんななかで、長谷工の業績が投資家から注目されるのはなぜか。
4月にも認知症を対象にしたデイサービス運営業者のふるさとを買収する。ふるさとは川崎、横浜市で50施設を持ち、重度の認知症の高齢者も受け入れている。買収額は30億円以内という。
長谷工は2つの子会社を通じて三大都市圏で高齢者向けの施設を37カ所運営している。20年までに都内や神奈川県、愛知県などで新たな高齢者施設を10カ所増やす予定だ。土地の有効活用を望んでいる所有者と組み、建設費は土地の所有者が負担し、完成後に長谷工がフロアを借りて高齢者施設を運営する。
老人ホームを運営しているのは、センチュリーライフと生活科学運営。両社合計で売上高は100億円に上る。4月に高齢者向け事業を統括する中間持ち株会社、長谷工シニアホールディングス(HD)を設立し、子会社3社を傘下に収める。
25年までに長谷工シニアHDの売上高を200億円、経常利益を売り上げの1割にする計画で、現在の2倍の規模に伸ばす目標だ。
マンション入居者の高齢化が進むことから長谷工はマンションの周辺部に老人ホームを開設する。自社開発した分譲マンションの入居者が定年退職した場合を想定。新たに高齢者向けの住宅を建設し、転居を促すことによってグループ全体で顧客を囲い込む考えだ。
(文=編集部)