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有馬賢治「日本を読み解くマーケティング・パースペクティブ」

【コロナ】マスクとトイレットペーパーの品薄を生んだ現象の“学術的分析”

解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季
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撮影=編集部

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、消費者の行動にも大きな変化が生じている。その代表として、マスクやトイレットペーパーの品薄や、外出自粛要請による食品等の買い溜めがあげられる。そもそもなぜ消費者は必要以上に物を買い溜めしてしまうのか。こうした非日常的な心理を、立教大学経営学部教授の有馬賢治氏にマーケティング・消費者心理の観点から解説してもらった。

品不足を引き起こす「認知的不協和」と「過剰適応」

「なぜ品不足が起こったのかを学術用語で説明しますと、まず一つは今回のような非日常下では消費者の中で『認知的不協和』(cognitive dissonance)が生まれやすい点を指摘できます。これはアメリカの心理学者レオン・フェスティンガーが提唱した社会心理学の用語で、人が自身の中で葛藤する認知を同時に抱えたときに覚える不快感を表します」(有馬氏)

 たとえば喫煙者の場合、「タバコを吸っている」という事実や「これからも吸い続けたい」という気持ちと、「タバコは体に悪い」という医学的情報が内的に葛藤する認知がそれにあたる。そのため、「タバコを吸い続ける」のか「タバコを止める」のかのどちらかを選択する必要に迫られた時、止められない喫煙者は「タバコは体に悪い」という認知を抱えておくことで自身の中で不快感を抱き続けることになってしまう。この不協和状態を解消するために、「タバコを吸っていても長生きする人はいる」などと自分自身で内的に反論することで、喫煙者は喫煙行動を正当化するのだ。これと同じ心理が今回も消費者の中で生まれているという。

「今回のケースでは、『いつも通りの日常を送りたい気持ち』と、『外出して人の多い場所へ行けば感染してしまうかもしれない不安』から内的に葛藤が生じます。しかし、それでも不安をできるだけ解消して日常を過ごさなくてはいけませんから、『マスクがあれば防御できる』『アルコール消毒すれば感染リスクが下がる』という情報を信じて、対象商品の購買に走るのです」(同)

 また、品不足を引き起こすもうひとつの消費者心理として「過剰適応」があると有馬氏。

「『過剰適応』とは言葉のとおり、一つの方針に過剰に適応しようとする態度です。コロナ騒動のケースに当てはめますと、普段通りの量を購入しておけば客観的に問題のない場合でも、自己の安心感を得るために“転ばぬ先の杖”的な消費行動を取ってしまう心理をさします。特に、トイレットペーパーで考えれば、家族単位でも12ロールぐらいで当面は大丈夫なのに、安心を得るためにその3倍も4倍も一度に購入してしまうという行動として現れています。結果として、多くの人がそういった行動をとることで、一気に物がなくなってしまったのです」(同)

「認知的不協和」で多くの人が対象商品を買い求め、「過剰適応」でその対象商品を通常量よりも多く購入する。そんな消費者心理が品不足に拍車をかけているのだ。

あらわになったメディアに対しての流通の脆弱性

 メディア報道による弊害も少なくない。トイレットペーパー不足に関するデマはTwitterが発信源といわれているが、この事象を取り上げたワイドショーやネットニュースによってさらに情報は拡散された。デマと知っていても、在庫切れになるのではないかという漠然とした不安から、自分の分だけでも確保したいと考える人が10人に1人でもいれば、途端に街のスーパーやドラッグストアでは品切れが起こる。メディアの煽りに対しての流通の脆弱性が、今回のコロナパニックで再認識させられた。

「だからこそ、消費者は冷静な行動と正確な情報を知る努力が必要になります。現代人はSNSのタイムラインに上がってくるニュースのみを情報ソースとする習慣がついてしまっていますが、そのような他者依存的な情報源では偏りが生まれます。例えば、最も悲観的な情報と、最も楽観的な情報という両極の情報を可能な範囲で集めて、クロスチェックを行うのであればデマにも惑わされにくくなると思います。情報源を確認する、引用先を自分で確かめるとった情報探索リテラシーを鍛えておかないと、今回のような非日常の際に、我を忘れてデマ等に流されやすくなってしまいます。このことを一人ひとりが自覚すべきでしょう」(同)

 一方、企業がこのような非日常に直面した場合、どのような対応をするべきなのか。製造業などの第二次産業ではマスクトイレットペーパーなど一部で特需が発生したケースもあるが、サービス業やエンタメ業などの第三次産業は大打撃を受けた企業も多い。東京ディズニーリゾートなどで行楽地の休園や大規模イベントの中止といった対応を行ったためだが、多くの雇用者を抱える企業として、マーケティング的にどうだったのか。

「正解といえると思います。なぜなら目の前の損害を恐れてイベント等を強行して集団感染の原因にでもなれば、社会的信用が失墜し、そちらの損害の方が大きくなるからです。企業が信用を得るためには時間と労力がかかりますが、ブランドイメージが崩壊するのは一瞬です。一方、それを回復するには相当の時間がかかります。

 とはいえ、企業としては苦しいことには変わりありません。企業が自力で対抗できない事象と直面した場合、善後策として政府、地方自治体、地域事業間や同業種でのネットワークなど複数の情報源との連携を意識して行動指針を考える必要がありそうですね」(同)

 コロナウイルスの影響で各方面が危機的状況に陥っている。だが、この経験を経て消費者と企業が非日常へ対応するノウハウを得られれば、これはこれで貴重な財産になるはずだ。いつか戻る日常へ向けて、企業も消費者もなぜこんな事態になってしまったのかをしっかりと考えながら今を過ごしたい。

(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

武松佑季/フリーライター

武松佑季/フリーライター

1985年、神奈川県秦野市生まれ。編集プロダクションを経てフリーランスに。インタビュー記事を中心に各メディアに寄稿。東京ヤクルトファン。サウナー見習い。

Twitter:@yk_takexxx

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