富士フイルムは能吏がカリスマを助ける
富士フイルムHDは6月1日付で67歳の中嶋成博社長が退任し、61歳の助野健児取締役執行役員が社長兼COO(最高執行責任者)に昇格する。中嶋氏は健康上の理由で退任を申し出た。副会長に就任し、6月29日付で退任するというのだから、副会長の在任期間は1カ月弱だ。退職慰労金を増やすために副会長になるということなのだろうか。健康上の理由での退任というのは、どこか信越化学と似ている。
中嶋氏が社長に就任したのは4年前だ。助野氏は1977年に富士写真フイルムに入社し、2013年からHDの取締役執行役員になったばかりである。助野氏は経理が長く、米国法人の財務責任者を務めてきた。京都大学法学部卒の助野氏は、実質的に社長兼社長室長兼秘書室長のような存在とみられている。4月28日付日経産業新聞は、「カリスマと能吏の二人三脚」と揶揄した。
76歳の古森重隆会長兼CEO(最高経営責任者)は続投する。古森氏がワンマンとして富士フイルムのすべてを取り仕切ることになるとの見方も強い。古森氏は00年に社長に就任し、12年から会長兼CEOに就いている。
富士フイルムHDは4月27日に会見を開いたが、新旧社長というより古森氏の独壇場だった。その場で古森氏はこう語った。
「4月に入ってから次の体制をどうするかいろいろ検討した。中嶋社長の退任の意思が固かったことから、何人かの候補の中から助野君にした。助野君は敏腕さと明快な頭脳を持つ。これからトップとして人を引っ張っていく力や包容力を磨いてほしいと彼に言った」
そのためか、記者の関心は助野氏に対してよりも、東芝の医療機器子会社である東芝メディカルシステムズを買収できなかったことに向けられていた。古森氏は買収に失敗したことについて、こう総括した。
「残念だったが、買わなければ将来が成り立たないというものでもない。使わなかった分(買収資金)の使い道はある。買ったほうが良かったが、資本効率という意味では大変なマイナス。プラスマイナスのある案件だった」
古森氏が富士フイルムHDの名実ともにトップだが、76歳という年齢は決して若くはない。富士フイルムHDも、古森氏に万一のことがあったら株価は急落するだろう。