新型コロナウイルス感染拡大を受け緊急事態宣言が発令され、「密閉空間」「密集場所」「密接場面」の条件が揃う「3密」の回避が叫ばれるなか、社会生活があらゆる面で制約を受けている。
参列者が多くなる葬儀、法事・法要も3密にあたり、大きな影響を受けている。そうしたなかで、終楽が運営する葬送オンラインサービス「涙(なだ)そうそう」では、提携している僧侶から新型コロナウイルスの影響で法事・法要が中止になったと声が寄せられたことから、クラスター感染防止を目的にさまざまなサービスを相次いで開始した。
今年3月からスタートしたスマホによる読経サービス「スマ坊さん」は、スマホに送られたアドレスをクリックすると、専用画面から故人の俗名、戒名・法名・法号などが入ったお坊さんの生の読経が、スマホから流れ、関係者がそれぞれの場所で参加できる。僧侶の進行に従い、焼香、合掌、礼拝などを行い、読経の時間は法要・供養で15分前後、枕経で約10分、火葬場での炉前経で1~2分、通夜15分前後、告別式・初七日で15~30分、希望によって時間の短縮も可能だ。
料金設定は法事と法要は2万円、一日葬4万円、家族葬6万円(いずれも静止画版)とセット料金も設け、5000円払うと宗派が指定でき、戒名も2万円~授与され、位牌なども購入することができる。
「コロナ対策葬」「荼毘葬」
葬儀を自粛する動きが多いなか、葬儀を行ってクラスター感染が発生するといった懸念を払しょくするために、4月からは新たなサービスも設けた。
「コロナ対策葬」は、通夜や告別式といった葬儀を行わず、1日霊安室に安置後、火葬する直葬を少人数で済ませ、その後は遺骨を手元に置いて供養し、コロナウイルス禍が収まってから後日葬を行うもの。火葬が済んだのち本葬を行うこのような方式は、以前から一部の地域では一般的に実施されていたものだが、経済性と利便性を徹底的に追求し、直葬は11万3000円~、後日葬は寺で10万円~、斎場で15万円~と今回改めて価格を抑えて提供している。
スマ坊さんも併せて利用すれば、多くの人たちも参加が可能となる。また、より簡易で経済的な火葬のみを行う8万5000円の「荼毘葬」も用意している。
外出自粛要請が出ている状況で、さらに一歩進めて葬儀を自宅で自分たちで行うという「セルフサービス葬」のサービスの提供も開始した。遺体搬送、火葬を済ませたうえで、写真立て、香炉、リン、ロウソク、線香など必要な道具を自宅に届けて、設定は利用者が行い、葬儀を執り行う。遺体安置、搬送、棺、葬儀用具8点、位牌制作、戒名、スマ坊さんの費用も含みセット料金は14万8000円。12万8000円の火葬とスマ坊さんの簡易な2点セットも用意した。
いずれのサービスでも火葬の料金は自治体によって異なるため含まれておらず、遺骨の収骨、配送も別料金となる。
「受け継がれてきた葬送文化を否定するものではないが、直葬が増えるなど生活者の意識も変化している。コロナにより外出もままならないなかで、新しいサービスやフォーマットを低価格で提供することで利便性を高めてニーズに的確に対応していきたい」(終楽の伊藤俊吾社長)
「やさしいお坊さん」は「スマ僧侶」開始
こうして業界に先駆けてコロナウイルス対応に取り組んできた終楽だが、追随する動きも出てきた。
ライフエンディングテクノロジーズの僧侶派遣サービス「やさしいお坊さん」でも、4月27日から、電話、ZOOM、LINE、SKYPEによる法事・法要での僧侶の読経サービスなどを提供する「スマ僧侶」を始めた。
また、感染症で亡くなった人の搬送や火葬対応を的確に対応できる葬儀社が少なく、喪主や病院が依頼する葬儀社が見つからないといった事態も懸念されているため、同社が運営する葬儀の総合サイト「やさしいお葬式」では、新型コロナウイルスで死亡した人を対象にしたシンプルな葬儀プランを設けた。
直葬プラン(火葬)とお別れ会プラン(後葬)を用意し、4月15日から1都3県でサービスを開始、20日からは大阪、愛知、三重と岐阜の一部にも拡大した。コロナウイルス対応を契機に、新たなサービスが提供され、葬儀の形もさらに変わっていくことが予想される。
(文=西川立一/流通ジャーナリスト、マーケティングプランナー)