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葬送・終活支援ソーシャルワーカー吉川美津子「生と死の福祉学」第2回

夫の位牌なし、墓なし…介護施設にひとり残された妻は、“制度の狭間”に取り残された

文=吉川美津子
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夫の位牌なし、墓なし…介護施設にひとり残された妻は、“制度の狭間”に取り残されたの画像1「Getty Images」より

 社会福祉士の吉川美津子です。福祉といっても、高齢者・障害者・児童・地域・低所得者等、さまざまな領域があり、社会福祉士は日常生活に課題を抱えている人などに対し、社会資源を活用して相談・支援を行うことを業としますが、私は「生」と「死」の間に大きな狭間があることを課題として掲げ、「生」と「死」をつなぐ支援に着目して活動しています。長年、葬儀業界に身を置いてきた経験と、現役の福祉職としての現場の実情を踏まえ、実際の事例を紹介しながら、情報をお伝えしていきたいと思っています。

“葬儀にお坊さんを呼ばなかった”

「私は夫をどうやって弔ったらよいのでしょうか?」

介護施設に入所中の坂田信子さん(91歳)は、施設の相談員にこう打ち明けた。

 長年郊外の閑静な住宅地にある一戸建て住宅に夫の和夫さんと2人で暮らしていた信子さんだったが、腰部脊柱管狭窄症の悪化とともに、バリアフリーで身体移動の少ない生活に切り替えるため、都内のタワーマンションに住み替えをした。しかし次第に介護度が高くなり、自宅での生活に限界を感じるようになった。和夫さんも体調を崩すことが多くなり、3年ほど前に信子さんは介護施設への入居を決めたのだった。

 施設への入居が決まってしばらくすると、和夫さんがガンに侵されていることを知る。和夫さんのきょうだいはすでに死去。坂田家側に姪はいるが疎遠のため、信子さんは、亡き実姉の息子である甥の中西陽介さん(70歳)に夫の世話を頼んでいた。

 親戚とはいえ、和夫さんと血のつながりがない中西さんにとってみれば、入院の手続きや支払い等、代理行為に制限があるなかで何かと不便なこともあったが、臨終時も立ち会い、信子さんに代わって葬儀も仕切った。葬儀後の面倒な手続きも、可能な範囲で信子さんに代わって行っていた。

 このように中西さんに信頼を寄せていた信子さんだったが、葬儀の後、施設生活相談員に不満を打ち明ける。

「恥ずかしい話なんですけどね、葬儀の際にお坊さんを呼ばなかったのよ。火葬だけで、すぐ終わっちゃった」

 信子さんにとってみたら、火葬だけで済ます葬儀スタイルは考えられないといった様子だった。さらに……

「遺骨の納骨先も決まっていない。位牌もない。いったいどうやって夫を弔ったらよいのでしょうか」

世話をしたのに、遺産は相続できない

「どうやって弔ったらよいのだろうか」。この悩みに対しての答えは、医療・介護・福祉系の教育カリキュラムには存在しない。施設の生活相談員は、「何もないと寂しいですよね。甥御さんと相談されてみてはいかがでしょうか」といった程度の返事しかできないことに戸惑っている。

 中西さんのほうからしてみたら「叔母の希望もわかりますが、私は坂田側の甥ではないですから、伯父が亡くなっても相続財産はもらえないし、お墓なんて買えないですよ。しかもお墓を買ったところで、誰が守っていくんですか?」ということになる。

 ちなみにいくら疎遠といえども、法定相続人にあたる姪には相続の権利がある。一方で、亡き和夫さんと血縁関係のない甥の中西さんは、法定相続人ではないため、遺言や生前贈与等がない限り、相続財産は入ってこない。中西さんはこう続ける。

「位牌もつくってあげたいしお墓も建ててあげたいけれど、仏壇を買っても施設には置けないし、お墓は継ぐ人がいないため、できれば遺骨はしばらくそのままにして、叔母の亡き後、改めて考えてもよいかな、と思っているんです」

 実際には、位牌程度なら施設に置くことができるし、今は小型な手のひらサイズの仏壇もある。遺骨の一部は分骨してミニ骨壺に納めれば施設に持っていけるし、お墓の心配も、中西さんが時間をかけて信子さんと話をすることで解決できる話かもしれない。

吉川美津子

吉川美津子

社会福祉士。葬送・終活支援ソーシャルワーカー。葬祭業者、仏壇・墓石販売業者などで勤務後、独立。コンサルタントとして活躍するかたわら、介護&福祉の現場でも活動中。著作に『お墓の大問題』(小学館)、『葬儀業界の動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)、共著に『死後離婚』(洋泉社)などがある。葬儀ビジネス研究所主宰、葬送儀礼マナー普及協会理事、供養コンシェルジュ協会理事、全国環境マネジメント協会顧問などを務める。

Twitter:@mk7jp

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