M&A(合併・買収)を成長戦略の中心に位置付ける企業が増えている。なかでも、精密機器メーカーは積極的だ。事務機はオフィス需要が飽和状態になっている上に、ペーパーレス化の流れにも影響を受けている。デジタルカメラはスマートフォン(スマホ)の普及で市場の縮小が止まらない。半導体製造装置の露光装置でもオランダのASMLが強く、劣勢に立たされている。
いわば三重苦の精密機器メーカーが、揃って照準を合わせたのが医療機器の分野だ。医療用機器は光学や画像処理、化学の技術を複合的に組み合わせて利用できるため、精密機器メーカーは自分の庭で勝負できるという安心感がある。医療分野は高齢化を背景に、需要は年々拡大している。機器、医薬品ともに市場の広がりが期待でき、安定収益を見込める。
東芝メディカルシステムズのM&Aでは、各社がしのぎを削った。東芝は2016年3月期に過去最大の7100億円の連結最終赤字を計上する見通しとなったため、虎の子の東芝メディカルの売却で赤字を穴埋めすることにした。東芝は東芝メディカルの売却益で最終赤字を4600億円に圧縮した。
キヤノンは医療機器を成長の柱に据える
東芝メディカルはコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)、超音波診断装置など、医療用の画像診断機器を手掛け、国内シェアは1位。世界でも4位で、12%のシェアを持つ。買収の入札にはキヤノンのほか、富士フイルムホールディングス、コニタミノルタなどが参加した。
近年では稀といわれる激烈な争奪戦でキヤノンが勝利した。当初、3000億円程度と見られていた買収額は、どんどん釣り上がって2倍以上の6655億円となった。
キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長は、「2020年に連結売上高5兆円以上に再挑戦する」との目標を掲げる。主力のカメラや複写機が伸び悩むなかで、監視カメラと商業印刷、そして医療用機器を次の成長の柱に据えた。つまり、東芝メディカルは社運を賭けた買収であり、絶対に落とせなかったのだ。
しかし、外部の評価は冷ややかだ。格付け会社ムーディーズ・ジャパンは、キヤノンの格付けを「Aa1」から「Aa3」に2段階引き下げた。巨額の買収で有利子負債が膨らみ財務体質が悪化したことが格下げの理由だ。
富士フイルムは再生医療の総合化を目指す
東芝メディカルの買収では、富士フイルムがぎりぎりまでキヤノンと競り合った。これまで注力してきた医療関連事業を一気に伸ばすチャンスを捉えたからだ。